Shall we study エングリッシュ?
日本人の英語に対する恨みつらみの大部分は、客観的には頷けないものが多いものです。本来、挫折感や絶望感は、それ相応の努力をしても、それが正当に認められなかったり、報われない時に抱くべき感情ですが、英語が身につかないことをこぼす人たちの多くは実際はそれだけのエネルギーを英語習得のために注いでいないのです。
森沢洋介『英語上達完全マップ』
””read,read,read”の上にさらに”write,write,write”のあまり、フラストレーションが高まってきて、頭がおかしくなり、”I hate English!”とつい英語で叫んでしまうくらい、英語の「頭脳環境」入ってみてほしいと思う。周囲の日本語の環境を変えることはできないかもしれないが、集中的に努力すれば、日本にいながら頭脳の中の環境を英語に変えることはできると思う。そうすれば、英文の読み書きもかなり上手になる。また、しばらくの間、英語から離れていれば、頭はほとんど元どおりにもどるので、だれも後悔しないと自信をもって言える。
マーク・ピーターセン『日本人の英語』
冒頭申し上げておくが、私は英語が大の苦手である。日記で嘘をついてもしょうがない。これは確固たる事実である。
中・高・大学と英語を勉強したにもかかわらず、英語を好きになったことはなかった。
「R」「L」の発音の違いなど、一度たりとも理解できたことがない。「SV?SVO?SVC?SVOO?」のあたりで大きく挫折し、英語が単なる記号の羅列にしか思えなくなった。
ハイタッチを強制する英語の授業に嫌悪感をいだき、大して仲良くない隣の席のヤツとの英会話練習に吐き気を覚えた。英語を得意げに話す日本人(特に女子アナ)を嫌った。電車の中にある英会話教室の広告に唾を吐いた。海外ドラマや映画はすべて日本語翻訳付きで観た。日本語が話せない外国人は日本に来るな!と思った(時期もあった)。
そんな学生生活も数年前に終了し、私は社会人となった。そして、もう、英語は必要ないものと思っていた。
――しかし、時代は変わった。(But,the times have changed )
社会人となった今、英語を身につけなければならない状況が再び訪れようとは。
――
1か月前。
「……それ、本気で言っているんですか?」
上司「うん。本気。会社として英語を重視していく方針なんだと」
「聞いてないですよ、そんな話……」
上司「俺だって同じだよ――でもお前は全然いいだろ?年も若いし、英語だって最近まで勉強していたんだし。俺なんか何十年も英語から離れているんだからね……」
「いや、僕だって社会人になってから、英語なんて触れたことないですから。それに、学生時代だって英語がひどくて。高校生のころに英検3級落ちて(笑)から、英語を嫌って生きてましたよ。センター試験だって100点いかなかったんですからね(もちろん、リスニング含めて)」
上司「あ、3級なら俺は中学生のころに受かったわ。――ともかく、お前だけじゃなくてみんな英語やらなきゃいけないんだから。文句言う暇があったら参考書見るなり英会話教室に行くなりしな。あとTOEICの目標点数も設定しとけよ。あ、言っとくけど、(990点満点中)100点達成!とかふざけたこと言ったらその時点でお前の評価下げるから」
「冗談も通じないご時世ですね」
というわけで、時代が変わり、英語が必須となった。私のような田舎者にも、ぐろーばるの波が押し寄せようとは。
――
会社の帰り、とりあえず本屋で参考書探し。長らく足を遠ざけていた英語教材のコーナーへ。
今のご時世、本当にいろいろな英語の教材がそろっている。「中学生英語を〇時間でマスター」だの「TOEIC〇点完全達成」だの「これだけ!ネイティブが使う英単語〇語」だの「旅行で必ず使う一言フレーズ選」「マンガで身に着けよう!日常英会話」だの、あらゆる需要者に合わせて参考書が作られているようだ。
いろいろな参考書をパラパラ見てみる。
(『マンガでわかる』的なやつは、手に取りやすい一方、結局自分の性格上、あまり役に立たないのよね。読まなくなって後悔するだけだ)
(「たった〇時間で身につく基礎英語』とか『毎日〇分でTOEIC700点』的なものも、結局流し読みして読まなくなるんだよね)
(タレントのような英語講師が書いた参考書は、私のプライドが許さない。かといって、辞書みたいに重厚な参考書はねえ……)
などと、文句ぷーたら垂れてどれも購入には至らない。
途方に暮れながら本棚を見ていると、
(……あ、この本)
と一冊の参考書が目に付く。
それがコレ。
【「話せる」ための音声(MP3)DLプレゼント付】 Mr. Evine の中学英文法を修了するドリル (Mr. Evine シリーズ)
- 作者: Evine
- 出版社/メーカー: アルク
- 発売日: 2007/06/02
- メディア: 単行本
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就職活動中、どうしても受けなければならない英語のテストがあった。中学英文法からシッチャカメッチャカだった私は、藁にもすがる思いでこの参考書を手に取った。
シンプルでわかりやすい内容なのはもちろん、230ページと分厚いわりに1ページの重みが薄いので、次から次へとページをこなしていく楽しみもあった。大嫌いな英語だったが、そこまで苦痛を感じることなく、中学英語を身に着けた。そして、この努力の結果、どうにか及第点に達することができた。
そして、今の企業に就職することができたのである……となればいいが、実際はその企業は途中で諦め、試験に英語がない企業に勤めた。だって、採用されても、英語を仕事に使うことなんて考えられなかったもの。(それが今の会社で英語を求められるとは……まったく、だまされた!)
「……この参考書、まだあったのね。どれどれ……あ、第22刷って、結構ベストセラーなんだ」
いろいろ悩んだが、あの時助けてもらったことを思い出す。
「もう一度、信じてみるか」
(英検3級/TOEIC350点程度……)
あれから1か月間、この参考書をかばんに入れ、出勤前や帰社後にカフェに入り、英語の勉強を続けている。土日もお菓子作りを控え、この参考書を開く。最近、ようやくこの参考書を8割がた理解できる段階まで到達した。
やっていくと、意外と英語って楽しいものですね。今は大好きな落語を封印し、通勤中や出張中にリスニングの練習をしている。また、海外ドラマを日本語翻訳音声ではなく、字幕の方に切り替えたりするなど、小さな努力を繰り返しているところです。まだ自覚するほどの成果にはつながっていませんけどね(笑)まあそんなにすぐ成果が出たら、こんな多くの日本人も苦労しませんわな、と開き直って勉強してます。
ちなみに、目標点数はTOEIC600点以上。まだまだ先は果てしない。山登りする前に、ようやく山登りするための道具を手にした段階ですかね。
季節は『シュウカツ』
……いっそのこと、「もう地元に残ってがんばっか」なんて思うこともある。それもいいだろう。地元の方が、若者に対する目に温かいものがあるし、若者に対する需要があるから、「やりがい」を維持しやすい環境であるとは思う。なにより、両親も喜んでくれることであろう。
……しかし、もう少し東京で苦労し、それでもうまくいかなくなってから、そういう気持ちを持ちたい。
2010年前半 就職活動で最もツライ時の『私の日記』
平日、外勤で街を歩いていると、しばしば
最近、就活生が増えたよな
と思う。
別に名札があるわけでもないのに、就活生だということが一目でわかる。まあ、「新入社員」の可能性もあるが、たぶん、声をかけて「就活生ですか?」聞いたら十中八九あたっている自信がある。
着慣れていないリクルートスーツ、常に携帯電話で何かをチェックする様子、妙に統一感のあるお化粧や髪型、どことなく不安な空気感……こんなところだろうか?
移動中の電車、営業途中に息抜きで入ったカフェ、オフィス街、取引先のオフィス、そして私が属する会社の中など、私が平日過ごす場所には、決まって彼らが現れる。 いやあ、すっかり就活生もこの時期の風物詩になったなあと、他人事のようにのんきに思う(まあ、他人事だしね)。
マイナビより
3月1日から就職活動の選考が開始。まさに就活生諸君は試練の真っ只中ということか。
余談だが、数年前、私もこの就活を味わった。
久しぶりに当時の自分の日記を読み返してみると、妙な自信と不安で感情が大きくゆれ動いていたのがわかって面白い。
当時は大変だったろう。まあ、地方の田舎者が東京での内定を目指して頭と身体をフルに活用している様は、今振り返ってみると結構面白い。いつか小説にでもして出版したいものである(タイトルは『nanimono』の予定。)
ともかく、
就活生諸君、頑張ってください
と、お兄さんは温かい目で見守っています。メールいただければ先輩としていつでも優しくアドバイスするよ!(女子大生限定だよ!)
――
金曜日。
この日は昼から電車で取引先へ商談。
夕方に商談を終え、電車で会社最寄り駅に戻る。
「――あの、すみません」
駅を出たタイミングで、声をかけられる。声をかけた主を一瞥。
そこにはリクルートスーツ姿の若い女性。
「あの、私、就活セミナーの研修中でして」
「?」
「あの、それで社会人の皆様にご協力いただいて、名刺交換の練習をさせていただいているんです」
「?」
「ご迷惑でなければ名刺を交換させていただきたいんですが……」
彼女は腕に「研修中」と書かれた腕章を身に着け、手には名刺入れを持っている。
あたりを見渡すと、リクルートスーツ姿の大学生(なぜか全員女の子)が、同じように社会人に声かけをしていた。中には彼女たちのリクエストに応じ、名刺を交換している社会人もいる。
しかし、私は状況が呑み込めなかった。
(就活生なのになぜ名刺交換の練習するの?今の時代ってそうなの?)
といぶかしく思う。
私は彼女に目を戻し、彼女が今すぐにでも交換したがっている名刺をのぞいた。
(……)
おそらくダミーの名刺。意味のない情報がそれっぽく並べられていた。
「あの、いかがでしょう?」
「……あは」
私は苦笑いだけして手で断った。
――
「ただいま戻りました~」
ナタデココさん「あ、おかえりなさ~い」
オフィスには事務職のナタデココさんが内勤業務をしていた。ナタデココさんは、公私ともによく相談に乗ってくれるベテラン社員さん。40代ながら、年齢を感じさせない美魔女(笑)です。
ナタデココさんに、先ほどの出来事を話したくなる。
「お疲れ様です、……あ、ナタデココさん。ちょっとさっき変なことがあったんですよ」
ナタデココさん「なに?仕事がらみ?上司の悪口?」
「いや、相変わらずばかばかしい話なんですが――実はコウコウコウコウで、就活中の女子大生に名刺交換の練習に付き合ってください、って駅前で言われまして」
ナタデココさん「え、何それ。気持ち悪(笑)それで、焼き芋君は名刺を交換したの?」
「いや、するわけないじゃないですか。あとでネットにさらされたり、悪用されたり(お付き合いの誘いが来たり)したら怖いですし」
ナタデココさん「まあ、それが正しい判断よね」
「ですよね!いや、周りを見たら交換している社会人もいて。アレ?もしかして交換してあげるのが社会人の先輩としての使命なんじゃないか?とか思っちゃって」
ナタデココさん「本当に女子大生かどうかも怪しいじゃない(笑)」
「いや~それは間違いないと思うんですが……女性の年齢を見分ける目は確かですので。ナタデココさんも5年前まで女子大生でしたよね」
ナタデココさん「あらお上手。あ、ここから駅前が見えるんじゃない?まだやってる?」
と言って、ナタデココさんは、駅が見渡せる窓のところに向かう。
ナタデココ「あ、あれのこと!?」
「あ、そうですそうです!まだやってる」
ナタデココ「あらほんとだわ。あ、あそこの中年おじさん、今交換してるわよ」
「ね、すごいでしょ!」
ナタデココ「男ってバカよね~、女子大生に声かけられたらああやってすぐ油断するんだから」
「まあ、本当に慈善の気持ちが強い方かもしれませんが……。それにしても、交換してる社会人って、男の人ばっかりですね(苦笑)」
ナタデココ「……あれ?」
「どうしました?」
ナタデココ「あそこの女子大生見て」
「どこですか?」
ナタデココ「ほら、あそこのオブジェがある場所!警備員みたいな人に声かけられてない?」
「あ、本当だ。注意されてるんですかね?」
ナタデココ「もしかして、駅に許可を取らないでやってたんじゃない?」
「あ~あ、女の子困っちゃってるよ」
ナタデココ「……あ、なんか女子大生たちが一人の男の人に集まってきた」
「あの人が『就活セミナー』の主催者ですかね」
ナタデココ「たぶんそうね……あ、なんか警備員と話し合ってる」
「……ちょっと揉めてません?」
ナタデココ「揉めてるわね……あ、撤収してるわよ!」
「撤収してるってことは……」
ナタデココ「あんたよかったわね。名刺交換しなくて」
「そうですね、名刺交換していたら今日眠れませんでしたね……」
ナタデココ「今の時代、うかつに名刺交換もできないわねえ。気をつけなさいよ」
「うーむ、考えさせられますね。就活生も大変ですね」
ナタデココ「だから、本当に就活生だったかわかんないじゃない」
「いや、僕の目は」
ナタデココ「節穴でしょ。風通しが良いこと」
「……あはは(こういう言葉遣いにベテランを感じます)」
私が見た就活生はだます側だったのか、だまされていた側だったのか……?
ともかく、就活生諸君、就職活動中は怪しい情報が錯綜しますので、十分気をつけましょう。あ、名刺交換しちゃったベテラン社会人のおじ様たちもね。
Lie to me
しずか「いくら四月ばかでも、よろこばせといてがっかりさせるのはかわいそうよ。それより、びっくりさせといてあとでほっとさせるほうが、親切だわ。あたし、親切なうそをついてあげよう」
ジャイアン「やはりだますんじゃないか」
ドラえもん第10巻『ハリ千本ノマス』より
半分の真実は偽りよりもこわい。
フォイヒタースレーベン 「警句集」
古典落語に『芝浜』というのがございます。これは、女房が旦那についた、とある嘘の話。以下、あらすじ。
魚屋の勝は、腕はいいものの酒好きで、仕事でも飲みすぎて失敗が続き、さっぱりうだつが上がらない、裏長屋の貧乏暮らし。その日も女房に朝早く叩き起こされ、嫌々ながら芝の魚市場に仕入れに向かう。しかし時間が早過ぎたため市場はまだ開いていない。誰もいない、美しい夜明けの浜辺で顔を洗い、煙管を吹かしているうち、足元の海中に沈んだ革の財布を見つける。拾って開けると、中には目をむくような大金。有頂天になって自宅に飛んで帰り、さっそく飲み仲間を集め、大酒を呑む。
翌日、二日酔いで起き出した勝に女房、こんなに呑んで支払いをどうする気かとおかんむり。勝は拾った財布の金のことを訴えるが、女房は、そんなものは知らない、お前さんが金欲しさのあまり、酔ったまぎれの夢に見たんだろと言う。焦った勝は家中を引っ繰り返して財布を探すが、どこにも無い。彼は愕然として、ついに財布の件を夢と諦める。
つくづく身の上を考えなおした勝は、これじゃいけねえと一念発起、断酒して死にもの狂いに働きはじめる。懸命に働いた末、三年後には表通りに何人かの若い衆も使ういっぱしの店を構えることが出来、生活も安定し、身代も増えた。そしてその年の大晦日の晩のことである。勝は妻に対して献身をねぎらい、頭を下げる。すると女房は、三年前の財布の件について告白をはじめ、真相を勝に話した。
あの日、勝から拾った大金を見せられた妻は困惑した。十両盗めば首が飛ぶといわれた当時、横領が露見すれば死刑だ。長屋の大家と相談した結果、大家は財布を拾得物として役所に届け、妻は勝の泥酔に乗じて「財布なぞ最初から拾ってない」と言いくるめる事にした。時が経っても落とし主が現れなかったため、役所から拾い主の勝に財布の金が下げ渡されたのであった。
事実を知り、例の財布を見せられた勝はしかし妻を責めることはなく、道を踏み外しそうになった自分を真人間へと立直らせてくれた妻の機転に強く感謝する。妻は懸命に頑張ってきた夫の労をねぎらい、久し振りに酒でも、と勧める。はじめは拒んだ勝だったが、やがておずおずと杯を手にする。「うん、そうだな、じゃあ、呑むとするか」といったんは杯を口元に運ぶが、ふいに杯を置く。「よそう。また夢になるといけねえ」
こんなに無駄のないお話はない。ぜひ落語の入門として楽しみたい作品である。
さて、この落語を聴きながら考えたいのは、
嘘
についてである。
どんな場合でも嘘をつくべきではないという人がいる。しかし、「芝浜」の中で女房がついた嘘は、私は「良い嘘」だと思う。――でも、多くの人がつく悪い嘘と、「芝浜」のような良い嘘って、いったい何が違うというんだろう?
あくまで私見だが、おそらく良い嘘というのは、
・相手を思った嘘であること
・嘘をついた本人が、嘘をついた事実に悩んでいること
・嘘をつかれた相手が嘘をつかれたことに感謝すること
というのが必要条件なのだと思う。この3つがそろったとき、嘘は単純に悪いものでは説明がつかなくなる場合が多いのではないか。逆に、この3つが欠けているとき、それは「悪い嘘」になってしまう場合が多いのではないか。(まあ、あくまで個人的な考えだが)
さて、この考え方で見た場合、私が少し前に付いた嘘はどうだろうか――?
4月3日(月)の夜。
彼女との電話。(あ、彼女とは遠距離中です)
私「――今日、久しぶりに親と電話したよ」
彼女「そうなんだ」
私「親も喜んでいたよ。昇進できたことを聴いて」
彼女「……え?」
私「まあ、昇進できないと思っていたから自分としてもうれしいんだけどね」
彼女「……ちょっと待って」
私「これからも仕事頑張っていこう!今日は祝い酒だ」
彼女「事情を説明してよ、どういうこと!?」
私「いや……まあ(笑)」
彼女「昇進しないんじゃなかったの!?ふざけてんの!?」
私「……いや、ごめんなさい,あれ、嘘になったみたい(笑)」
彼女の電話 ブチっ……プープープー
私「あ、やばい……めちゃめちゃ怒ってる……」
その後、彼女に何度もかけなおしたが、彼女は電話に出てくれなかった。
この会話だけを切り取れば、彼女の反応は不可思議だろう。普通ならば喜んでくれるであろう私の昇進を聞いたのに、彼女は怒り出したのである。
……だが、今思えば、彼女の反応は正しいと思う。なぜならば、今回、私は嘘をついたからだ。そして、私が付いた嘘は、少なくとも彼女にとって「悪い嘘」であった。
――
さかのぼること3月31日(金)の夜。彼女との電話。
彼女「どうしたの?落ち込んでない?」
「……わかる?」
彼女「わかるわよ。さっきからため息がうるさいもの」
「まあね。『同期の中で自分だけが昇進できない』ってわかったら、そりゃ落ち込むでしょ」
彼女「あ、そうか、4月だし、そろそろ昇進の時期だもんね――そうなんだ、今回は昇進できないんだね。でも、なんでアナタだけ昇進できないってことわかるの?」
「今日、内示(会社全体に辞令内容が公表される前に、上司から本人に内内で辞令内容が伝えられること)がなかったからね。普通、辞令が公表される少し前に、内示があるもんなんだよ。4月3日(月)に会社の辞令が出るはずなのに、今日3月31日(金)に内示がなかったんだよね」
彼女「そうなんだ……でも、わかんないじゃん。同期も聞いてないかもよ?それに、内示が当日に言われることだってあるかもしれないし」
「そんなわけないよ」
彼女「同期に聴いてみたら?内示出た?って」
「聞いたよ。出たってさ」
彼女「本当に言ってたの?」
「うん。言ってた言ってた。……やだね、本当に。俺がダメなやつなのはわかっていたけど、こうやって突き付けられるとつらいよね。でも、事実は正確に受け止めないとね」
彼女「そうなんだ……でも気にしなくていいよ、そんなあなたも好きだからさ」
「……もういいよ……俺、こんなに頑張ってんのになあ。まあ、偉そうに言えるほどの仕事もしてないか(笑)……」
彼女「元気だしなよ。今日はやけ酒でもしたら?(笑)」
「もういいよ……。寝る。そのうち気持ちも回復するだろうしね。……でも、今は何も考えたくない。ごめん、電話切るね」
彼女「そう……わかった。また明日電話するね」
こんな会話をしたのであった。そして、先週の土日、彼女から電話が来たが、私はそれを無視した。
――
きたる4月3日の朝、辞令が公表される数時間前に、上司から昇進の内示を言い渡されたのであった。
そして、その日の夜に彼女と冒頭の会話をし、彼女を怒らせた、というわけである。
――さて、私は彼女に対し1つの嘘をついた。それは、
3月31日の段階で、同期は内示があったが、私は内示がなかった
という嘘。まあ、要するに、
本当は、私は同期に内示の有無を聞いていない
のである。
こうなると、3月31日に単純に彼女をだましたことになる(あと1日遅ければ、堂々と嘘をつける日だったのだが)。
――なお、以下はいいわけ。
結果として彼女に嘘をついた私だが、自分としては
彼女だけではなく、自分自身に対しても嘘をついた
と思っている。つまり、同期に内示があったか聴いていないのは、彼女に嘘をつきたかったのではなく、
同期に内示が出ていたかどうか聞くのが怖かった
ということである。
つまり、4月3日に内示をもらうまでは、昇進できるかもらえるかどうかわからない不安でいっぱいの心境であった。ただ、本当に昇進できなかった時のために、彼女に嘘をついたのである。その嘘が真実になっても、自分自身が受けるダメージを少なくするために。
ちなみに、前回の日記は、3月31日の段階で内示がもらえなかったショックと、本当に昇進できない、と自分自身をだましている心境を綴っている(タイトルに『下書き保存』を入れたのは、もしかしたら嘘かもしれません、という意味でした)。
(……コメントを下さった方、結果として嘘をついたこと、どうぞお許しください。本当に)
まあ、ある意味で嘘なのだが、自分の中では半分真実のように信じ込んでいた。
自分までだます嘘って悪いことだし、怖いことだと感じた。今回の嘘は、悪い嘘ですね。
以上、言い訳ゴタク日記でした。こういううじうじした奴は出世しないね。
追伸
今では彼女も昇進を喜んでくれています。懐の深い彼女に完敗……いや、乾杯。
つらいから(下書き保存)
金曜日。
仕事で少しだけツライことがあった。
別に悪いことをしたわけじゃないし、ミスを犯してしまったわけではないじゃん。ただ、やっぱりつらいよ。サラリーマンにはありがちなつらいことなんだろうな。
それを引きずった土曜日。
昼、久しぶりに古い友人と会った(約半年ぶりだし、友人とよべるかも微妙な関係だね)。
そこまで仲良くないのに、グチグチと愚痴を言ってしまった。でも、それを彼は温かく受けとめてくれた。彼と過ごしている時間は、つらいことを忘れられた。
夕方に友人と別れ、家に帰る。
……でも、家に帰ったら、またつらいことを思い出す。
晩御飯として途中で買った吉野家の牛丼(並)を食べる。でも、つらいことで胸がいっぱいで、ちっとも食が進まなかった。半分くらい残しちまったぜ。
18時には、眠れないのにベッドに入る。浅い眠りと気味の悪い夢を繰り返した。
――
日曜日。
8時に起床。寝すぎである。(約14時間眠っていたようである。)
ボーっとしながら、ワイシャツとハンカチにアイロンをかける。こんな時でもアイロンをかける自分が大好きである。
昼前までグダグダ過ごすも、『何かしなきゃプレッシャー』に押され、ランニングウェアに着替える。
外に出て河川敷をゆっくりと20km走る。走っている間は、金曜日のつらいことを忘れることができた。だからずっと走っていたかった。でも、カラダの節々が痛みで追い付かなくなり、走るのをやめた。
走り終え、シャワーを浴び終えたときは気持ちがある程度晴れていた。その勢いで部屋の掃除をしたりケーキを作ったり読書したりして過ごした。
(うん、いい調子。少しずつマイペースになってきたかな)
と思っていると、あっという間に日が暮れる。
……夜になると、またつらいことを思い出す。夜よ来ないでくれ……って思うけど、あっという間に外は暗くなる。……明日、会社休みたい。サザエさん症候群ってこんな気分のこと?久しぶりだね、こんなことを思うなんて。
書きたい事なんて思いつかないのに、パソコンつけてこのブログを開いてる。
この2日間について記す。何にもないけど、書いている当人だけは、少しだけ楽になっている。
嗚呼、明日会社行きたくない……。でも、もうすぐ明日だね。月曜日はどうなってんのかな、俺……。
……と、ここまで書いてみたのだが……内容なさすぎるので、書かなくてもよかったね(苦笑)とりあえず下書きで保存しておこっと。
時間があるならカフェに行こう
あらゆる新しいものに対する最良の教養の場所はつねにカフェであった
シュテファン・ツヴァイク『昨日の世界』
金のある話より夢のある話をしよう コーヒーを飲みあいながら囲えるテーブルで
夕べの悲しみは朝焼けに変わるだろう だから 今は何杯でもコーヒーに夢を注ぐ
熊木杏里『夢のある喫茶店』
日曜日。
8時頃に起床。
頭が正常に働き始めたころにワイシャツにアイロンをかける。終わったら、コーヒーを飲みながら読書。
昼前にようやく読み終える。そして、今日やるべきことがなくなる。
(ぼんやりワイドショーを見て過ごすのはもったいないし……パンでも作ろうかしら、それとも軽くランニングしようかしら。いや、別の本を読む?うーん……)
いつもの休日プランを頭に浮かべる。しかし、今日はどれもぴんと来ない。
――
家から歩いて10分ほどのコメダ珈琲。
(まあ、これはこれで代わり映えのしない休日だな笑)
などと思いながら、サンドイッチとコーヒーを頼む。そして、携帯でいろいろな人のブログを拝見させていただく。
女子大生①「――じゃあ、次ね。貴女の長所と短所を教えてください」
女子大生②「はい。ええっと……私の長所は積極的な性格だと思います。この性格から、普段からできる限りいろいろなことを知ろうと大学のイベントに参加したり、複数の短期アルバイトを経験するなど、いろいろと視野を広げることができました。逆に短所ですが、自分の意見を強く主張できないところだと思います」
女子大生①「ストップストップ(笑)それってなんか矛盾してない?長所が積極的なのに、短所が消極的になってない?それじゃ通じないって(笑)」
女子大生②「だって……うち消極的だけど、それはダメだと思うから、積極的にいろいろ参加してるんだよ?」
女子大生①「努力はいいと思うけど(笑)じゃあ次ね。うちの会社で働いてもらったとして、デートの約束と急な仕事が重なってしまったとき、あなたはどちらを優先させますか?」
女子大生②「ちょっと、それ本当に書いてるの?」
女子大生①「書いてるって。ほら」
女子大生②「本当だ……はい。ええっと……ちょっと待って、いま、私彼氏いないからわかんないんだけど」
女子大生①「あ!それ一番言っちゃいけないやつ!見てほら、『この質問の意図は、急な仕事が入っても、プライベートと仕事を両方うまくこなせるどうかを見ています。彼氏や彼女がいるかどうかを尋ねている、と勘違いするのは一番間違った解釈です』って書いてる(笑)」
女子大生②「そんな質問するほうがおかしいでしょ。もういや……」
女子大生①「もっとメイクとかも気にしないとね――ねえ、これ見て。こういうメイクができたらいいんだよね。まあ、元が元だからしょうがないんだけどさあ」
女子大生②「ねえちょっと、この説明会チェックしてる!?」
女子大生①「え?知らない――なんだ、まだ予約前のやつじゃん。それより、このアプリ知ってる?写真撮ったらメイクのアドバイスしてくれるんだって!」
女子大生②「……ねえ、お店込んできたよ?そろそろ出たほうよくない?」
女子大生①「そうね。ちょっと、そんなあわてなくていいって(笑)……気遣いすぎ(笑)」
(……頑張れよ。メイクは親しみやすい感じにしな)
――
昼下がり。
店員「こちらの席どうぞ」
男「あいよ。ほら、君は奥に座りな」
女「ありがとうございます」
店員「注文がお決まりになりましたらーー」
男「あ、もう決まってんだ。俺は『小倉ノワール』とアメリカン。あ、君は?」
女「えっと、それじゃあ、私はブレンドコーヒーで」
店員「は、かしこまりました」
男「あ、お兄ちゃん、これってイチゴのソースかかってんだろ?これかけないでもらっていい?」
店員「かしこまりました」
男「わるいね。俺酸っぱいのあんまり好きじゃないんだ」
女「ふふふ」
男「トイレ行ってくるね」
女「はい」
就活生が去った席に座ったのは、親しみやすいおっちゃん雰囲気の60代男性と、20代後半と思われる女性の2人組。2人がどういった関係なのか、私には知る由もない。ただ、親子でないことは第3者でもわかった。
――
店員「こちら、『小倉ノワール』でございます。ブレンドと、アメリカン、失礼いたします」
男「あいよ。おおきに」
女「おいしそう――」
男「勝手に食べて」
女「はい、いただきます」
男「なんだか、外、曇ってきたなあ」
女「そうですね――あ、おいしい」
男「そう?好きなだけ食って」
女「はい(笑)」
しばらく小倉ノワールをつつきあう二人。少し落ち着くと、女性が口を開く。
女「……あの……仕事のこと……なんですけど」
男「――まあ、人生いろいろあるからな。本当、いろいろだよ。自分もいろいろあったから」
女「……」
男「……この席、ええなあ。落ち着くわ」
女「……はい」
男「……あれやな、雨、また降ってきたなあ」
女「はい」
男「うーん。そうやな」
女「……正直、今の仕事がつらいんです」
男「うん。そうか」
女「……私、仕事辞めたいんです。事務所の人間関係が辛くて。内勤業務だと、だれがだれに味方するとか、だれに気を遣わなければならないとかばっかりで……ちょっとつらいし、むなしいですよね」
男「うーん、うんうん。そうなんだ。そうか」
女「……あ、ごめんなさい……こんな話」
男「ええよええよ。でも、まあ、それはなんとも言えんなあ……」
女「……ふふふ、そういえばそうですよね、会長に話すことじゃないですよね」
(……会長?)
私は、彼らの方を向きたい気持ちを抑えた。――男性の見えない力が、私にそれをさせなかったのである。
男「……いや、うーん。まあ、大変なんだね」
女「……ふふふ……(鼻をすする)」
男「……大丈夫?」
女「……ごめんなさい。あの、大丈夫ですから(笑)」
男「あ、ごめんね。ちょっと電話が。ちょっと出るわ」
女「あ、はい」
席を立つ男性。残された女性は、静かにコーヒーを飲む。そして、外に出て電話をしている男性の姿を見つめていた。(それを横目に見ている私)
――
男「ごめんね」
女「いえ。もう大丈夫です――雨、少しやみましたね」
男「霧っぽい感じだね……大丈夫?」
女「はい!ありがとうございます。……ふふふ(笑)ごめんなさい」
男「なにに謝ってるん(笑)……じゃあ、行こうか!」
彼らは去っていった。取り残された私。
――
(……俺も帰ろうかな。雨が本降りにならないうちに)
帰ろうと携帯をかばんに入れようとしたとき、また次のお客が隣の席に着く。
店員「こちらの席にどうぞ」
女性①「はい」
女性②「――あ、また雨が降ってきたね」
(推定)アラサー女性が2人、また隣の席に座る。
女性①「シロノワール頼んじゃおっかな」
女性②「あ、じゃあ私も。飲み物はどうする?」
女性①「アイスココアとかいいね。でも、あったかいのがいいかな」
女性②「私、紅茶にしようかな。でもコメダ珈琲なのに紅茶っていうのもね(笑)」
女性①「コメダ珈琲なのにね(笑)」
彼女たちは、それぞれブレンドコーヒーとシロノワールを頼む。
店員「こちら、シロノワールとブレンドコーヒーでございます」
店員が去ると、彼女たちは無言のまま写真を撮り始めた。
女性①「それで、どんな調子?」
女性②「あんまり集中してできてないね。まだレベル30だもん」
女性①「めっちゃやってんじゃん!さすがでございますね」
女性②「いや、もっと集中してやりたいの。でもなかなかね。課金どうしようか考え中」
女性①「課金って(笑)ちなみに先生はどれくらいしてるの?」
女性②「これくらい(笑)」
女性①「すご。私はそこまでの段階まで到達しませんから」
女性②「あんたは無駄な動きが多いでありますからね。効率よく■■しないとafafa限定のポーラスがカッパッパになります」
女性①「そうおっしゃいますが、gabuTAのゲースが崩壊したら★★じゃありませんか」
女性②「まだわかっておりませんね。ゲースの崩壊がその後wewewe現象につながるんです」
女性①「そういうことでありますか!」
(……)
――
(雨やまないけど、そろそろ帰ろうかな……)
最後のコーヒーを飲み終わり、帰る準備。――すると、
店員「こちらのお席2つを合わせる形でよろしいでしょうか?」
男a「あ、大丈夫っす。ほら、ここ良いってよ!」
男b「あー疲れた疲れた」
女a「私、奥~」
女b「じゃあ、私ここにしよっと~」
男c「注文どうする!?マジ腹減った~」
男d「注文はお前にまかすとりあえず俺はコーヒーね」
女c「あ、私もおなかすいたー」
男4人、女3人の団体。いわゆる学生サークル風の雰囲気である。しかし、見かけから、大学生とは思えぬ微妙な老け込みも感じられた。
彼らが来たのをみて「まさに今帰るのがベストだな」と思ったのだが――。彼らのこんな会話が耳に入る。
男a「――そういえば、チョメチョメ先輩、会社辞めるってよ。知ってる?」
一同「まじ!?」
男a「うん。この前聞いた。仙台の実家に帰るんだって」
男c「あの飛び込み営業の神が!?」
女a「信じられない……」
男d「俺、なんか目標失ったわ……。まあ、飛び込みなんて真似したくないんだけどね。んで、理由は?」
男a「知らない。なんかいろいろあったみたいだけど」
女a「いろいろって?」
男a「……さあ。そこは教えてくれなかった」
女b「うち、知ってる」
一同「え?なんで?」
女b「なんでって……まあいいじゃん」
ワイワイワイワイワイワイワイ
ピンポーン
店員「はい。お待たせいたしました」
「あ、すみません、追加なんですけど、『小豆小町桜』をお願いします」
店員「かしこまりました。ありがとうございます」
日曜日のコメダ珈琲は、いろんな人が足を運び、仲間とともにいろんなことを語り合う。
――なんだかとってもリラックスできた日曜日でした:->:->:->
オモイコミの盲点
思い込みをただ単に並べ替えることを、考えることだと勘違いしている人は多い。
ウィリアム・ジェームズ
無意識の考えが影響を及ぼすのは、私たちがそのような考えに警戒しなければならないことに気づいていない時である。反対に言えば、自分がそのような無意識の考えを抱いていることを意識するだけでも、大きな効果がある。「人間はみんな偏見を持っている」という結論を受け入れる理由もそこにある。自分が偏見を持つ存在だと認めることで、潜在的なものを顕在化させ、ひっそりと潜む先入観の力を削ぐのである。
サム・サマーズ「考えてるつもり 『状況』に流されまくる人たちの心理学(原題『Situations Matter: Understanding How Context Transforms Your World』)」
今週は水曜日から2泊3日の出張であった。そのちょうど折り返し地点にあたる、木曜日の夜のことである。
営業車の大移動を終え、今夜泊まるビジネスホテルにたどり着く。
チェックインし、ベッドの上で一息つく。
さて、部屋で軽くパソコンを叩こうと思ったが、時刻も19時ということで空腹を覚える。
「今日の仕事は……もうおしまいですね」
私は財布をもって部屋を出る。
――
「さて、どうしようかしらん」
晩御飯をどう済ますか、ノープラン。
こんな時、先輩営業マンたちの中には
地方出張はその土地その土地の美味しいものを食べることが醍醐味だろ
という人がいる。だが、私はグルメ情報に大変疎いので、その醍醐味を楽しむことはほとんどない。たいてい、コンビニや地方スーパーをぐるぐる回り、適当な弁当や総菜を食べることが多い。
さて、ホテルの前からはコンビニと牛丼屋が見える。
「コンビニで酒、牛丼屋で牛丼を買って、ホテルでちびちびやろうかしら?」
と思う(これもまた至福なのである)。
……しかし、少し考えて修正。
「あ、やっぱり酒はダメ。明日は朝も早いし、商談もびっちり入っているんだから……酒なんか飲んだら商談のパフォーマンスが落ちる」
今日一日の努力に対するご褒美として酒を飲みたい。……だが、疲れた頭でも、明日のことを考える理性だけはどうにか保っていた。(まあ、酒を飲まなきゃ商談がすべてうまくいくわけでもないが)
酒はあきらめることにしたが、ただ牛丼を食べて帰るのもつまらない。しょうがないのでホテルの周りを少し歩いてみた。
――
5分ほど歩くと、ちょこちょこと飲食店が見えてくる。ラーメン屋やうどん屋やハンバーガー屋やカフェや居酒屋などなど。
(ラーメン屋やうどん屋だとゆっくりできないし、居酒屋は厳禁だしなあ……)
悶々としながら歩いていると……
(あ、回転寿司。……回転寿司かあ)
目に入ったのは回転寿司。全国チェーンではなく、地方で数十店舗展開しているお店のようである。
「……寿司でもいいかな。量も調整できるし、牛丼チェーンよりかはまともな食事だろう。――よし、寿司を存分に食べて、ホテル帰ろう」
と思い、店内に入る。考えてみれば、初めてのおひとり様回転寿司であった。
――
「いらっしゃいませ!」
威勢の良い声で迎えられる。
19時という時間帯だが、客は私を含めて3名程度。個人的には客が少ない方が周りの視線を気にしなくてよいのでありがたい。
レーンの中心には、店長と思われる30半ばくらいの男性と、20代前半に見える男性店員(店員A)の2名。なお、店員Aの胸には「研修中」とある。あとは運び係の女性が2名、店内をうろうろとしていた。
――
エビやイカや玉子やネギトロ等の無難なところをぱくぱくと食べる。6皿ほど食べると、そこそこ腹が膨れる。
店内の愉快な音楽が響く中、店員同士の会話が聞こえてくる。
店長「いい?時間に余裕があったらレーンの空いたスペースを詰めて別の寿司を並べたりすんだよ?次つぶ貝だして」
店員A「わかりました。あ、すみません、つぶ貝ってどこにあるんでしたっけ?」
店長「ここだよ、ここ」
店員A「あ、すみません。ありがとうございます」
お客が少ないせいか、レーンの内側では、店長が店員Aを指導中。そんな様子をぼんやり眺めつつ、
(そろそろ締めの『何か』を食べて帰ろうかな)
と、カウンターにあるメニューを手に取る。
(最近はパネル式のメニューが増えたけど、やっぱりこういうほうがいいよな――……ん?)
私は一つの商品に目を留めた。それは
マジックパフェ 200円
というもの。メニューのデザート欄にそれはあった。特に説明文もなく、何か丸い白いカタマリの写真が映っているだけ。
(マジックパフェ……?マジックってなに?写真は杏仁豆腐っぽいけど……食べたら酸っぱいとか?……実は白子とか?……気になる)
すっかりマジックパフェで頭がいっぱいになる。ただ、店員に頼むのは少し躊躇。
――これまでの経験則として
回転寿司屋のデザートというのは、安っぽいものをソコソコの値段で売りつける
という印象がある。このマジックパフェも、名前だけ突飛で、食べてみたらしょうもないものである恐れがある。
あ、言っておくけど、別に私は(独身)貴族なのだから、200円くらい痛くもかゆくもない。しかし、何も考えずにあほ面で注文して後悔するのは心底嫌だったのである。
(……頼む?頼まない?どうするどうする?)
悩みつつも、ちっともラチが明かない。そこで、恥ずかしながら店員さんに聞いてみることにした。
「あ、すみませーん」
店員A「はーい!」
返事をしたのは若い店員A。
「あの、このマジックパフェなんですけど」
店員A「はい、マジックパフェ1つですね」
「あ、いや注文の前に、どんなものか教えてもらってもいいですか?何が『マジック』なんですかね?(笑)」
そう尋ねると、店員Aは少し悩んだ様子。そして、笑いながら
店員A「あ~それはなんとも……(笑)食べてみないとわからないですね(笑)」
との回答。
「え……?はあ」
私は彼の返答を聞いて少し苛立ちを覚える。
(わからないならわからないっていいなさいよ。それじゃ回答になってないでしょうが。俺はね、その正体を知ったうえで注文するかどうかを判断したいわけ。それなのに、自分がわからないからってそんな返答されちゃ、結局俺の方が判断できないじゃないのよ。いくら研修中だからって、そんな回答したらだめだろうが。わからなかったら『わからないので確認します』っていう勇気も必要なんだよ。営業だったら客から怒られるところだぜ?)
直接言ってやってもいいのだが、生来ハト派である私は、事を荒立てることはしたくない。そこで、口には出さず
「あ、そうですか……」
と返答。(臆病者ではなく紳士と呼んでほしい)
店員A「……マジックパフェ1つでいいですか?」
「……あ……いや、少し考えさせてください」
店員A「かしこまりました」
店員Aは去っていく。しかし、私の煩悶は続く。
(もう頼まないで帰っちゃえよ。別に大したもんでもないだろうし)
(でも、これで頼まなかったら、今日眠れる?『マジックパフェってなんだったの?』ってならない?)
(じゃあ、後でネットで調べればいいじゃん)
(すぐネットで調べる、って発想が、我々人類の思考能力の低下を引き起こし、さらに好奇心を失わせてきたんじゃないだろうか?)
(じゃあ頼むってこと?さっさと頼みなよ。でもまあ、店員Aに笑われるんじゃない?『あ、こいつ結局頼むんだ。いい年して200円のスイーツで悩みすぎなんだよ(笑)』ってね(笑))
(お金の問題じゃないだろうが)
(時間がもったいないね時間がもったいないね時間がもったいないね)
と、アンビバレントな煩悶を繰り返す。5分ほど悶々し、結局
(……やっぱり頼もう)
と、注文する意向に軍配が上がる。……しかし、何も考えずに注文するのではなく、マジックパフェがどんなものかを知った上で頼みたい。
そこで、もう一人の店員である店長に尋ねることにした。
しかし、同じ質問を店長にするのは、店員Aからすれば気持ちの良いものではないだろう。そこで、
店員Aが寿司を用意し、店長の手が空いた瞬間
を狙う。これならば誰も傷つかなくて済む。しかし、こんな都合の良いタイミングはなかなか訪れず、悶々は続く。
――
10分後、ついにその時がきた。すかさず、
「あ、すみませーん」
と声を出す。
店長「はーい」
望みの店長が近づいてくる。なお、店員Aの方に聞かれないように小さい声で
「あの、このマジックパフェなんですけど」
と尋ねる。しかし、あまりに小さい声だったのか
店長「はい?」
と聞き返される。仕方ないので少々ボリュームを上げ
「このマジックパフェなんですけど、どんなものなんですかね。知ったうえで頼むか決めたいんですけど……」
と尋ねる。
店長「あ、マジックパフェですね」
「はい!(ようやくマジックパフェの全貌が明らかになる!いいか研修店員Aよ、ちゃんと勉強しろよ!)」
店長「ええっと――」
――
ホテルに帰り、風呂に入る。そして、眠る前に彼女と電話。
彼女「それで、店長はなんて?」
「それがねえ……」
彼女「?」
「店長はこういったわけ。『ネタバレになりますけどいいですか?』って」
彼女「……どういうこと?」
「俺は『はあ』って感じ。そのあと、マジックパフェのことを教えてくれたよ。『こうこうこういうもんですよ』って。それで、頼んだわけ」
彼女「あ、頼んだんだ(笑)」
「そりゃそうだよ。こんだけじらされたんだし。――それで、こんなものがでてきたわけ」
(マジックパフェ実物)
彼女「ナニコレ。かまくら?」
「これに『あること』をすると、『ある変化』が起こるんだよ。――知らずに頼んだらびっくり……まあ、ネタを知ったら『なんだそんなことか』って感じ。店長のいう通り、まさにネタバレ厳禁のマジックだね。気になるならネットで調べてくれ」
彼女「ふーん……でも、それで何であんたがそんなに落ち込んでんのよ」
「……そりゃ落ち込むよ」
――彼女と話す私は、大変落ち込んでいた。長いこと付き合っているせいか、言わなくても声のトーンで落ち込んでいることは伝わるらしい。
彼女「なんでこの話の流れで落ち込むの?意味が分かんない」
「……いや、だって、最初に聞いた若い店員Aさんに悪いことしたじゃん」
彼女「え、なんで?」
「わかんない?店員Aさんは『マジックパフェ』の正体を知っていたんだよ。そして、マニュアル通り、『頼んでからのお楽しみ』っていうニュアンスで伝えるのを貫いたんだよ。……それなのに、俺は店員Aの胸にある『研修中』の名札を見て、勝手に『わからないのにそれをごまかそうとした店員』って判断しちゃったんだよ?そりゃ自己嫌悪でしょうが」
彼女「ああ……」
今一つピンと来ていない彼女。そこで、説明を続ける私。
「俺がもう一回『マジックパフェ』について店長に尋ねたときは、店員Aさんは嫌な気持ちになっただろうよ。たぶんだけど」
彼女「どうせ聞こえてなかったでしょ?」
「いや、聞こえたよ。店長、結構大きい声で説明してくれてたし」
彼女「でも、本当に見習い君は『マジックパフェ』がどんなものか知らなかった、って可能性もあるじゃない?」
「おそらく、それはないね」
彼女「どうして?」
「この『マジックパフェ』は、ほかのデザートのようにただ冷蔵庫から取り出してお客に出すものじゃないんだよ。お客に出すまで『いくつか工程』があるわけ。つまり、そのお店の中では特殊な商品の1つにあたるんだよ。だから、厨房に立つ店員として、商品特徴は最低限覚えておかなければならない製品だと思う。そこから推測するに、いかに研修中とはいえど、寿司を出せるまでに至った人間が、それを知らないということは考えにくいね」
彼女「でも、仮にそうだとしても、客のあんたが『マジックパフェ』がどんなものか本当に知りたがっていたんだから、店員Aさんはマニュアル通りの回答じゃダメなんじゃないの?『教えてあげたほう良い』って思ったから店長も教えてくれたんだし」
「どうだろうね。店長という立場だからネタバレでも言えたのかもしれない。研修生が同じことしていいかどうかはわからんよ。研修生だったら、まずはマニュアル対応を徹底して覚えてから、少しずつ自分の判断を加えていく、ってものだと思うけど」
彼女「それも思い込みかもよ。……まあ別にいいんじゃない?研修生ならよくあることだよ。これも修行の1つでしよ」
「いや、良くないね。己の愚かな偏見に胸が痛くなった。今夜は眠れない」
彼女「それであんたが眠れなかったためしはないから大丈夫よ」
私の悲痛な様子に反し、彼女はどうでもよさそうな感じであった。
……ともかく、今回の出来事に対して言いたいことは3つ。1つは
自分は気づかぬうちに偏見を持ってしまうので気をつけなければならない
ということ。もう1つは
店員Aさん、大変失礼いたしました。また出張した際にお邪魔させていただきますので許してくださいね?
ということ。そして最後に、
マジックパフェ、寿司屋のデザートにしてはとてもおいしく、とてもびっくりさせられる商品でした。お子さんも大喜びすること間違いなし!そして、200円でこれはとってもとってもお買い得だと思います!見つけた際はぜひぜひご注文を~。
ということですね(苦笑) 嗚呼、 偏見のない人間になりたい。
紅茶はアイボウ
しかし今回、東インド会社が彼に依頼してきたのは、単なるプラントハンティングに留まらない、ずっとスケールの大きな仕事だった。その仕事を引き受けたら、世界一経済的価値のある植物を盗み出し、枯らしたり腐らせたりせずに元気な状態で、別の大陸に無事移植できるように手配しなければならない。それはどんなプラントハンターも直面したことのない、極めて困難な仕事だった。
わずか一週間後に、会社から正式な依頼の手紙が届いた。
『紅茶スパイ 英国人プラントハンター中国をゆく』サラ・ローズ
喫茶店でミルクティーを注文するには、まず喫茶店に入ることが必要である(入り方については省略する)。
『紅茶を注文する方法』土屋賢二
「これが…ジャンピング?うまくいったの……?」
熱湯を注いだポットをじっと見る。
――
皆さんご機嫌よう。お久しぶりですわね。
……別に人生をさぼっていたわけではない。ただ、ゴルフやらマラソンやら、勉強やらお菓子作り等で心乱されてしまい、ブログに力を注ぎ切れなかっただけである。
……まあ、言い訳ですね。いろいろ忙しい中でブログを続けている人はたくさんいるんだし。でも、改めてブログを続けられる人って、すごいんだと思いました!あたし、本当に尊敬します!(いや、本当に) あたしも、定期的にブログをちゃんと書いていきたい!そう思っています。なので、また仲間に入れてくださいね!:->:->:->
――
さて、ブログを書くことができなかった理由(言い訳)の一つに
紅茶検定を受ける!
というのがあった。
文字通り、紅茶に関する検定である。日本紅茶協会という(よくわからない)格式高い団体が中心となって行った格式高い検定である。
私がこの検定を受けようと思ったのは、なんとなく女性受けしそうだとおも……
――実は、この本に出会ったからである。
内容(「BOOK」データベースより)
19世紀、中国がひた隠ししてきた茶の製法とタネを入手するため、英国人凄腕プラントハンター/ロバート・フォーチュンが中国奥地に潜入…。アヘン戦争直後の激動の時代を背景に、ミステリアスな紅茶の歴史を描いた、面白さ抜群の歴史ノンフィクション。
とあるブログにお邪魔し、この本の存在を知った。大分ツンドクしていたのだが、ようやく読んでみると、あまりの面白さに夢中になった。
紅茶を飲んだことがない人や紅茶が苦手な人でも一度は耳にしたことがあるだろう、紅茶の代表銘柄『ダージリン』。いわゆる「紅茶」の大半は、日本ではほとんど育種されない『アッサム種』と呼ばれる茶種である。ーーだが、実は紅茶の代表格である『ダージリン』は、日本茶や烏龍茶と同じ『中国種』であることをご存じだろうか?
世界一有名なダージリン紅茶がこの世に誕生するまでには、たくさんの大人の事情と――ある一人のとんでもない冒険野郎が関わっていた。
という内容(こんな要約じゃ怒られるかしら?)
読了後は、もっと紅茶を知りたくなり、迷いなく紅茶検定に申し込んでいた(酔っぱらった調子でインターネットで紅茶検定にたどり着き、ウェブで申し込みをしてしまったともいえる)と、こういうわけである。
そして、紅茶検定は、本日3月20日に行われたのであった。 絶対に合格するべく、紅茶に関する本を買い集め、読みまくった。
(実際に試験にかかわる本は、この中のうち2冊だけだったが。また、ほぼツンドクになってしまったが)。
――
受けたのは、初級と中上級の併願。
余談だが、会場は、圧倒的に女性が多かった気がする。若くてイケメンな男性は、私を含めてもごくわずかだったと思う。
――
試験終了。
受かったか、正直微妙である(ブログで見栄は張らない)。検定に直接関係のない本を読んだのはプラスにもマイナスにも働いた気がする(本によって言っていることが違うんですよ~)。
ともかく、試験が終わったので、大分解放された気分。それに、合否は別にして、それまで興味がなかった「紅茶」という世界に浸れたのはよかった。また一つ、視野が広がりましたかね。
さて、試験からも解放されたし、これからも日記をちゃんと書いていくぜ!
……あ、いや、シルシテイキマステヨ?