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「まくら」営業、はじめました。

営業職の男です。「まくら」を極めて営業のタツジンになりたいのです。

オモイコミの盲点

 

 

思い込みをただ単に並べ替えることを、考えることだと勘違いしている人は多い。

ウィリアム・ジェームズ

 

 

無意識の考えが影響を及ぼすのは、私たちがそのような考えに警戒しなければならないことに気づいていない時である。反対に言えば、自分がそのような無意識の考えを抱いていることを意識するだけでも、大きな効果がある。「人間はみんな偏見を持っている」という結論を受け入れる理由もそこにある。自分が偏見を持つ存在だと認めることで、潜在的なものを顕在化させ、ひっそりと潜む先入観の力を削ぐのである。

サム・サマーズ「考えてるつもり 『状況』に流されまくる人たちの心理学(原題『Situations Matter: Understanding How Context Transforms Your World』)」

 

 

 

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今週は水曜日から2泊3日の出張であった。そのちょうど折り返し地点にあたる、木曜日の夜のことである。

 

営業車の大移動を終え、今夜泊まるビジネスホテルにたどり着く。

 

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チェックインし、ベッドの上で一息つく。

 

さて、部屋で軽くパソコンを叩こうと思ったが、時刻も19時ということで空腹を覚える。

 

「今日の仕事は……もうおしまいですね」

 

私は財布をもって部屋を出る。

 

――

 

「さて、どうしようかしらん」

 

晩御飯をどう済ますか、ノープラン。

 

こんな時、先輩営業マンたちの中には

 

地方出張はその土地その土地の美味しいものを食べることが醍醐味だろ

 

という人がいる。だが、私はグルメ情報に大変疎いので、その醍醐味を楽しむことはほとんどない。たいてい、コンビニや地方スーパーをぐるぐる回り、適当な弁当や総菜を食べることが多い。

 

 

さて、ホテルの前からはコンビニと牛丼屋が見える。

 

「コンビニで酒、牛丼屋で牛丼を買って、ホテルでちびちびやろうかしら?」

 

と思う(これもまた至福なのである)。

 

 

 

……しかし、少し考えて修正。

 

「あ、やっぱり酒はダメ。明日は朝も早いし、商談もびっちり入っているんだから……酒なんか飲んだら商談のパフォーマンスが落ちる」

 

今日一日の努力に対するご褒美として酒を飲みたい。……だが、疲れた頭でも、明日のことを考える理性だけはどうにか保っていた。(まあ、酒を飲まなきゃ商談がすべてうまくいくわけでもないが)

 

 

酒はあきらめることにしたが、ただ牛丼を食べて帰るのもつまらない。しょうがないのでホテルの周りを少し歩いてみた。

 

 

――

 

5分ほど歩くと、ちょこちょこと飲食店が見えてくる。ラーメン屋やうどん屋やハンバーガー屋やカフェや居酒屋などなど。

 

(ラーメン屋やうどん屋だとゆっくりできないし、居酒屋は厳禁だしなあ……)

 

悶々としながら歩いていると……

 

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(あ、回転寿司。……回転寿司かあ)

 

目に入ったのは回転寿司。全国チェーンではなく、地方で数十店舗展開しているお店のようである。

 

「……寿司でもいいかな。量も調整できるし、牛丼チェーンよりかはまともな食事だろう。――よし、寿司を存分に食べて、ホテル帰ろう」

 

と思い、店内に入る。考えてみれば、初めてのおひとり様回転寿司であった。

 

――

 

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「いらっしゃいませ!」

 

威勢の良い声で迎えられる。

 

19時という時間帯だが、客は私を含めて3名程度。個人的には客が少ない方が周りの視線を気にしなくてよいのでありがたい。

 

レーンの中心には、店長と思われる30半ばくらいの男性と、20代前半に見える男性店員(店員A)の2名。なお、店員Aの胸には「研修中」とある。あとは運び係の女性が2名、店内をうろうろとしていた。

 

――

 エビやイカや玉子やネギトロ等の無難なところをぱくぱくと食べる。6皿ほど食べると、そこそこ腹が膨れる。

 

店内の愉快な音楽が響く中、店員同士の会話が聞こえてくる。

 

店長「いい?時間に余裕があったらレーンの空いたスペースを詰めて別の寿司を並べたりすんだよ?次つぶ貝だして」

 

店員A「わかりました。あ、すみません、つぶ貝ってどこにあるんでしたっけ?」

 

店長「ここだよ、ここ」

 

店員A「あ、すみません。ありがとうございます」

 

 

お客が少ないせいか、レーンの内側では、店長が店員Aを指導中。そんな様子をぼんやり眺めつつ、

 

(そろそろ締めの『何か』を食べて帰ろうかな)

 

と、カウンターにあるメニューを手に取る。

 

 

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(最近はパネル式のメニューが増えたけど、やっぱりこういうほうがいいよな――……ん?)

 

 私は一つの商品に目を留めた。それは

 

 

 

マジックパフェ 200円

 

というもの。メニューのデザート欄にそれはあった。特に説明文もなく、何か丸い白いカタマリの写真が映っているだけ。

 

 

 

 

(マジックパフェ……?マジックってなに?写真は杏仁豆腐っぽいけど……食べたら酸っぱいとか?……実は白子とか?……気になる)

 

 

すっかりマジックパフェで頭がいっぱいになる。ただ、店員に頼むのは少し躊躇。

 

――これまでの経験則として

 

回転寿司屋のデザートというのは、安っぽいものをソコソコの値段で売りつける

 

という印象がある。このマジックパフェも、名前だけ突飛で、食べてみたらしょうもないものである恐れがある。

 

あ、言っておくけど、別に私は(独身)貴族なのだから、200円くらい痛くもかゆくもない。しかし、何も考えずにあほ面で注文して後悔するのは心底嫌だったのである。

 

(……頼む?頼まない?どうするどうする?)

 

悩みつつも、ちっともラチが明かない。そこで、恥ずかしながら店員さんに聞いてみることにした。

 

「あ、すみませーん」

 

店員A「はーい!」

 

返事をしたのは若い店員A。

 

「あの、このマジックパフェなんですけど」

 

店員A「はい、マジックパフェ1つですね」

 

「あ、いや注文の前に、どんなものか教えてもらってもいいですか?何が『マジック』なんですかね?(笑)」

 

そう尋ねると、店員Aは少し悩んだ様子。そして、笑いながら

 

店員A「あ~それはなんとも……(笑)食べてみないとわからないですね(笑)」

 

との回答。

 

「え……?はあ」

 

私は彼の返答を聞いて少し苛立ちを覚える。

 

(わからないならわからないっていいなさいよ。それじゃ回答になってないでしょうが。俺はね、その正体を知ったうえで注文するかどうかを判断したいわけ。それなのに、自分がわからないからってそんな返答されちゃ、結局俺の方が判断できないじゃないのよ。いくら研修中だからって、そんな回答したらだめだろうが。わからなかったら『わからないので確認します』っていう勇気も必要なんだよ。営業だったら客から怒られるところだぜ?)

 

直接言ってやってもいいのだが、生来ハト派である私は、事を荒立てることはしたくない。そこで、口には出さず

 

「あ、そうですか……」

 

と返答。(臆病者ではなく紳士と呼んでほしい)

 

 

店員A「……マジックパフェ1つでいいですか?」

 

「……あ……いや、少し考えさせてください」

 

店員A「かしこまりました」

 

 

店員Aは去っていく。しかし、私の煩悶は続く。 

 

(もう頼まないで帰っちゃえよ。別に大したもんでもないだろうし)

 

(でも、これで頼まなかったら、今日眠れる?『マジックパフェってなんだったの?』ってならない?)

 

(じゃあ、後でネットで調べればいいじゃん)

 

(すぐネットで調べる、って発想が、我々人類の思考能力の低下を引き起こし、さらに好奇心を失わせてきたんじゃないだろうか?)

 

(じゃあ頼むってこと?さっさと頼みなよ。でもまあ、店員Aに笑われるんじゃない?『あ、こいつ結局頼むんだ。いい年して200円のスイーツで悩みすぎなんだよ(笑)』ってね(笑))

 

(お金の問題じゃないだろうが)

 

(時間がもったいないね時間がもったいないね時間がもったいないね)

 

 

と、アンビバレントな煩悶を繰り返す。5分ほど悶々し、結局

 

 

(……やっぱり頼もう)

 

と、注文する意向に軍配が上がる。……しかし、何も考えずに注文するのではなく、マジックパフェがどんなものかを知った上で頼みたい。

 

そこで、もう一人の店員である店長に尋ねることにした。

 

 

しかし、同じ質問を店長にするのは、店員Aからすれば気持ちの良いものではないだろう。そこで、

 

店員Aが寿司を用意し、店長の手が空いた瞬間

 

を狙う。これならば誰も傷つかなくて済む。しかし、こんな都合の良いタイミングはなかなか訪れず、悶々は続く。

 

 

――

 

10分後、ついにその時がきた。すかさず、

 

「あ、すみませーん」

 

と声を出す。

 

店長「はーい」

 

望みの店長が近づいてくる。なお、店員Aの方に聞かれないように小さい声で

 

「あの、このマジックパフェなんですけど」

 

と尋ねる。しかし、あまりに小さい声だったのか

 

店長「はい?」

 

と聞き返される。仕方ないので少々ボリュームを上げ

 

「このマジックパフェなんですけど、どんなものなんですかね。知ったうえで頼むか決めたいんですけど……」

 

と尋ねる。

 

店長「あ、マジックパフェですね」

 

 

「はい!(ようやくマジックパフェの全貌が明らかになる!いいか研修店員Aよ、ちゃんと勉強しろよ!)」

 

店長「ええっと――」

 

 

 

 

 

 

 

 

――

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ホテルに帰り、風呂に入る。そして、眠る前に彼女と電話。

 

彼女「それで、店長はなんて?」

 

「それがねえ……」

 

彼女「?」

 

「店長はこういったわけ。『ネタバレになりますけどいいですか?』って」

 

彼女「……どういうこと?」

 

「俺は『はあ』って感じ。そのあと、マジックパフェのことを教えてくれたよ。『こうこうこういうもんですよ』って。それで、頼んだわけ」

 

彼女「あ、頼んだんだ(笑)」

 

「そりゃそうだよ。こんだけじらされたんだし。――それで、こんなものがでてきたわけ」

 

 

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 (マジックパフェ実物)

 

彼女「ナニコレ。かまくら?」

 

「これに『あること』をすると、『ある変化』が起こるんだよ。――知らずに頼んだらびっくり……まあ、ネタを知ったら『なんだそんなことか』って感じ。店長のいう通り、まさにネタバレ厳禁のマジックだね。気になるならネットで調べてくれ」

 

彼女「ふーん……でも、それで何であんたがそんなに落ち込んでんのよ」

 

「……そりゃ落ち込むよ」

 

 

――彼女と話す私は、大変落ち込んでいた。長いこと付き合っているせいか、言わなくても声のトーンで落ち込んでいることは伝わるらしい。

 

 

彼女「なんでこの話の流れで落ち込むの?意味が分かんない」

 

「……いや、だって、最初に聞いた若い店員Aさんに悪いことしたじゃん」

 

彼女「え、なんで?」

 

「わかんない?店員Aさんは『マジックパフェ』の正体を知っていたんだよ。そして、マニュアル通り、『頼んでからのお楽しみ』っていうニュアンスで伝えるのを貫いたんだよ。……それなのに、俺は店員Aの胸にある『研修中』の名札を見て、勝手に『わからないのにそれをごまかそうとした店員』って判断しちゃったんだよ?そりゃ自己嫌悪でしょうが」

 

彼女「ああ……」

 

今一つピンと来ていない彼女。そこで、説明を続ける私。

 

「俺がもう一回『マジックパフェ』について店長に尋ねたときは、店員Aさんは嫌な気持ちになっただろうよ。たぶんだけど」

 

彼女「どうせ聞こえてなかったでしょ?」

 

「いや、聞こえたよ。店長、結構大きい声で説明してくれてたし」

 

彼女「でも、本当に見習い君は『マジックパフェ』がどんなものか知らなかった、って可能性もあるじゃない?」

 

「おそらく、それはないね」

 

彼女「どうして?」

 

「この『マジックパフェ』は、ほかのデザートのようにただ冷蔵庫から取り出してお客に出すものじゃないんだよ。お客に出すまで『いくつか工程』があるわけ。つまり、そのお店の中では特殊な商品の1つにあたるんだよ。だから、厨房に立つ店員として、商品特徴は最低限覚えておかなければならない製品だと思う。そこから推測するに、いかに研修中とはいえど、寿司を出せるまでに至った人間が、それを知らないということは考えにくいね」


 

彼女「でも、仮にそうだとしても、客のあんたが『マジックパフェ』がどんなものか本当に知りたがっていたんだから、店員Aさんはマニュアル通りの回答じゃダメなんじゃないの?『教えてあげたほう良い』って思ったから店長も教えてくれたんだし」

 

「どうだろうね。店長という立場だからネタバレでも言えたのかもしれない。研修生が同じことしていいかどうかはわからんよ。研修生だったら、まずはマニュアル対応を徹底して覚えてから、少しずつ自分の判断を加えていく、ってものだと思うけど」

 

彼女「それも思い込みかもよ。……まあ別にいいんじゃない?研修生ならよくあることだよ。これも修行の1つでしよ」

 

「いや、良くないね。己の愚かな偏見に胸が痛くなった。今夜は眠れない」

 

彼女「それであんたが眠れなかったためしはないから大丈夫よ」

 

 私の悲痛な様子に反し、彼女はどうでもよさそうな感じであった。

 

 

……ともかく、今回の出来事に対して言いたいことは3つ。1つは

 

自分は気づかぬうちに偏見を持ってしまうので気をつけなければならない

 

ということ。もう1つは

 

店員Aさん、大変失礼いたしました。また出張した際にお邪魔させていただきますので許してくださいね?

 

ということ。そして最後に、

 

マジックパフェ、寿司屋のデザートにしてはとてもおいしく、とてもびっくりさせられる商品でした。お子さんも大喜びすること間違いなし!そして、200円でこれはとってもとってもお買い得だと思います!見つけた際はぜひぜひご注文を~。

 

 

ということですね(苦笑) 嗚呼、 偏見のない人間になりたい。