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「まくら」営業、はじめました。

営業職の男です。「まくら」を極めて営業のタツジンになりたいのです。

Lie to me

 

 

 

しずか「いくら四月ばかでも、よろこばせといてがっかりさせるのはかわいそうよ。それより、びっくりさせといてあとでほっとさせるほうが、親切だわ。あたし、親切なうそをついてあげよう」

ジャイアン「やはりだますんじゃないか」

ドラえもん第10巻『ハリ千本ノマス』より

 

 

半分の真実は偽りよりもこわい。
フォイヒタースレーベン 「警句集

 

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古典落語に『芝浜』というのがございます。これは、女房が旦那についた、とある嘘の話。以下、あらすじ。

 

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魚屋の勝は、腕はいいものの酒好きで、仕事でも飲みすぎて失敗が続き、さっぱりうだつが上がらない、裏長屋の貧乏暮らし。その日も女房に朝早く叩き起こされ、嫌々ながら芝の魚市場に仕入れに向かう。しかし時間が早過ぎたため市場はまだ開いていない。誰もいない、美しい夜明けの浜辺で顔を洗い、煙管を吹かしているうち、足元の海中に沈んだ革の財布を見つける。拾って開けると、中には目をむくような大金。有頂天になって自宅に飛んで帰り、さっそく飲み仲間を集め、大酒を呑む。
翌日、二日酔いで起き出した勝に女房、こんなに呑んで支払いをどうする気かとおかんむり。勝は拾った財布の金のことを訴えるが、女房は、そんなものは知らない、お前さんが金欲しさのあまり、酔ったまぎれの夢に見たんだろと言う。焦った勝は家中を引っ繰り返して財布を探すが、どこにも無い。彼は愕然として、ついに財布の件を夢と諦める。
つくづく身の上を考えなおした勝は、これじゃいけねえと一念発起、断酒して死にもの狂いに働きはじめる。懸命に働いた末、三年後には表通りに何人かの若い衆も使ういっぱしの店を構えることが出来、生活も安定し、身代も増えた。そしてその年の大晦日の晩のことである。勝は妻に対して献身をねぎらい、頭を下げる。すると女房は、三年前の財布の件について告白をはじめ、真相を勝に話した。
あの日、勝から拾った大金を見せられた妻は困惑した。十両盗めば首が飛ぶといわれた当時、横領が露見すれば死刑だ。長屋の大家と相談した結果、大家は財布を拾得物として役所に届け、妻は勝の泥酔に乗じて「財布なぞ最初から拾ってない」と言いくるめる事にした。時が経っても落とし主が現れなかったため、役所から拾い主の勝に財布の金が下げ渡されたのであった。
事実を知り、例の財布を見せられた勝はしかし妻を責めることはなく、道を踏み外しそうになった自分を真人間へと立直らせてくれた妻の機転に強く感謝する。妻は懸命に頑張ってきた夫の労をねぎらい、久し振りに酒でも、と勧める。はじめは拒んだ勝だったが、やがておずおずと杯を手にする。「うん、そうだな、じゃあ、呑むとするか」といったんは杯を口元に運ぶが、ふいに杯を置く。「よそう。また夢になるといけねえ」

芝浜 - Wikipedia

 

 

こんなに無駄のないお話はない。ぜひ落語の入門として楽しみたい作品である。

 

さて、この落語を聴きながら考えたいのは、

 

 

についてである。

 

どんな場合でも嘘をつくべきではないという人がいる。しかし、「芝浜」の中で女房がついた嘘は、私は「良い嘘」だと思う。――でも、多くの人がつく悪い嘘と、「芝浜」のような良い嘘って、いったい何が違うというんだろう?

 

あくまで私見だが、おそらく良い嘘というのは、

・相手を思った嘘であること

・嘘をついた本人が、嘘をついた事実に悩んでいること

・嘘をつかれた相手が嘘をつかれたことに感謝すること

というのが必要条件なのだと思う。この3つがそろったとき、嘘は単純に悪いものでは説明がつかなくなる場合が多いのではないか。逆に、この3つが欠けているとき、それは「悪い嘘」になってしまう場合が多いのではないか。(まあ、あくまで個人的な考えだが)

 

 

さて、この考え方で見た場合、私が少し前に付いた嘘はどうだろうか――?

 

 

4月3日(月)の夜。

 

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彼女との電話。(あ、彼女とは遠距離中です)

 

私「――今日、久しぶりに親と電話したよ」

彼女「そうなんだ」

私「親も喜んでいたよ。昇進できたことを聴いて」

彼女「……え?」

私「まあ、昇進できないと思っていたから自分としてもうれしいんだけどね」

彼女「……ちょっと待って」

私「これからも仕事頑張っていこう!今日は祝い酒だ」

彼女「事情を説明してよ、どういうこと!?」

私「いや……まあ(笑)」

彼女「昇進しないんじゃなかったの!?ふざけてんの!?」

私「……いや、ごめんなさい,あれ、嘘になったみたい(笑)」

彼女の電話 ブチっ……プープープー 

私「あ、やばい……めちゃめちゃ怒ってる……」

 

 その後、彼女に何度もかけなおしたが、彼女は電話に出てくれなかった。

 

この会話だけを切り取れば、彼女の反応は不可思議だろう。普通ならば喜んでくれるであろう私の昇進を聞いたのに、彼女は怒り出したのである。

 

……だが、今思えば、彼女の反応は正しいと思う。なぜならば、今回、私は嘘をついたからだ。そして、私が付いた嘘は、少なくとも彼女にとって「悪い嘘」であった。

 

 ――

 

さかのぼること3月31日(金)の夜。彼女との電話。

 

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彼女「どうしたの?落ち込んでない?」

「……わかる?」

彼女「わかるわよ。さっきからため息がうるさいもの」

「まあね。『同期の中で自分だけが昇進できない』ってわかったら、そりゃ落ち込むでしょ」

彼女「あ、そうか、4月だし、そろそろ昇進の時期だもんね――そうなんだ、今回は昇進できないんだね。でも、なんでアナタだけ昇進できないってことわかるの?」

「今日、内示(会社全体に辞令内容が公表される前に、上司から本人に内内で辞令内容が伝えられること)がなかったからね。普通、辞令が公表される少し前に、内示があるもんなんだよ。4月3日(月)に会社の辞令が出るはずなのに、今日3月31日(金)に内示がなかったんだよね」

彼女「そうなんだ……でも、わかんないじゃん。同期も聞いてないかもよ?それに、内示が当日に言われることだってあるかもしれないし」

「そんなわけないよ」

彼女「同期に聴いてみたら?内示出た?って」

「聞いたよ。出たってさ」

彼女「本当に言ってたの?」

「うん。言ってた言ってた。……やだね、本当に。俺がダメなやつなのはわかっていたけど、こうやって突き付けられるとつらいよね。でも、事実は正確に受け止めないとね」

彼女「そうなんだ……でも気にしなくていいよ、そんなあなたも好きだからさ」

「……もういいよ……俺、こんなに頑張ってんのになあ。まあ、偉そうに言えるほどの仕事もしてないか(笑)……」

彼女「元気だしなよ。今日はやけ酒でもしたら?(笑)」

「もういいよ……。寝る。そのうち気持ちも回復するだろうしね。……でも、今は何も考えたくない。ごめん、電話切るね」

 彼女「そう……わかった。また明日電話するね」

 

こんな会話をしたのであった。そして、先週の土日、彼女から電話が来たが、私はそれを無視した。

 

――

きたる4月3日の朝、辞令が公表される数時間前に、上司から昇進の内示を言い渡されたのであった。

 

そして、その日の夜に彼女と冒頭の会話をし、彼女を怒らせた、というわけである。

 

 

 

――さて、私は彼女に対し1つの嘘をついた。それは、

 

3月31日の段階で、同期は内示があったが、私は内示がなかった

 

という嘘。まあ、要するに、

 

本当は、私は同期に内示の有無を聞いていない

 

のである。

 

こうなると、3月31日に単純に彼女をだましたことになる(あと1日遅ければ、堂々と嘘をつける日だったのだが)。

 

――なお、以下はいいわけ。

 

結果として彼女に嘘をついた私だが、自分としては

 

彼女だけではなく、自分自身に対しても嘘をついた

 

と思っている。つまり、同期に内示があったか聴いていないのは、彼女に嘘をつきたかったのではなく、

同期に内示が出ていたかどうか聞くのが怖かった

ということである。

つまり、4月3日に内示をもらうまでは、昇進できるかもらえるかどうかわからない不安でいっぱいの心境であった。ただ、本当に昇進できなかった時のために、彼女に嘘をついたのである。その嘘が真実になっても、自分自身が受けるダメージを少なくするために。

 

ちなみに、前回の日記は、3月31日の段階で内示がもらえなかったショックと、本当に昇進できない、と自分自身をだましている心境を綴っている(タイトルに『下書き保存』を入れたのは、もしかしたら嘘かもしれません、という意味でした)。

yakiimoboy.hatenablog.com

(……コメントを下さった方、結果として嘘をついたこと、どうぞお許しください。本当に)

 

 まあ、ある意味で嘘なのだが、自分の中では半分真実のように信じ込んでいた。 

 

自分までだます嘘って悪いことだし、怖いことだと感じた。今回の嘘は、悪い嘘ですね。

 

以上、言い訳ゴタク日記でした。こういううじうじした奴は出世しないね。

 

 

 

追伸

今では彼女も昇進を喜んでくれています。懐の深い彼女に完敗……いや、乾杯。