ギザ十な日々

2人の息子と妻との日々を書いています。

今夜タガを外さず

 

 

 

闇の夜は 吉原ばかり 月夜哉(かな)

榎本其角

 

 

二葉亭四迷という人が、この国にはじめて『I love you』という言葉が入ってきたときに、『あなたとならば死んでもいい』と、こう訳したんだそうであります。もちろん、その頃、人を好きになるとか嫌いとか、もちろん、『愛』なんて言葉がなかったから訳せなかったんでしょうがーー情を通じるなんていうね、そういう言葉もありますが、みんながみんなそんな覚悟でもって、人を好いたり好きになったり好かれたり――ということではないんでしょうけども、最大公約数を求めようと思って、みんなにわかりやすく、そして、少し激しく、という言葉で訳した時は、日本語で『I love you』を『あなたとならば死んでもいい』と、そう言っていた時代が、はるか昔ではありますが、有ったころのお話ではございまして――

立川談春『紺屋高尾 まくら』より

 

 

 

 

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今日は会社がお休み。

 

さぼりではなく、会社から有給取得を命じられていたため、お盆休みにつなげていたのである。でも、ちょっと休みすぎて明日から会社に行くのが憂鬱。

 

 

少し遅めに起床後、部屋を掃除したり、軽くランニングしたり、英語の勉強したり、甲子園をぼんやり観たりして過ごした。せっかくの平日休みなのに、特別なことは何もなかった。ちょっともったいなかったかな。

 

こんな日は、夜の街に繰り出してイイ事ワルイ事するのがイキな男であるが……私はふと、本棚にあった一冊の本を手に取る。

 

 

図説 吉原事典 (朝日文庫)

図説 吉原事典 (朝日文庫)

 

 

私、実は落語が結構好きで、通勤中や出張中によく聴いている。落語を聴いた直後に商談に入ると、心なしか言葉がスムーズに出る気がするのである(営業トークに悩む諸君、よかったら真似してみてね)。

 

 

 

ところで、落語では、男の三大道楽である

 

飲む、打つ、買う

 

が題材になることが多い。飲むはお酒、打つは博打、を意味している。では、買うっていったい何?そう、

 

女遊び

 

ですね。私は生来まじめな性格ですので、この女遊びというものがまるでよくわからないのですが(あははは)――。

 

落語では

 

吉原

 

がよく舞台として出てくる。遊女3000人の不夜城、津々浦々の男どもが一皮むけるために集ってくる(場合によっては皮という皮全てをむかれてしまう)。

 私の好きな落語の演目も、この吉原でつとめる遊女が重要な登場人物であることが多い。そこで、落語の世界観をより深く理解するために、この本を購入したのであった。しかし、案の定、なかなか読むひまがなくツンドク状態となっていた。

 

せっかくの有休なので、この本を読みながら吉原の世界にタイムスリップすることにした。

 

 

――

 

本の冒頭。

闇の夜は 吉原ばかり 月夜哉(かな)

この俳句は読点をどこに打つかで、まったく正反対の意味になる。

 

 

闇の夜は 吉原ばかり 月夜哉(かな)

闇の夜は、吉原ばかり月夜哉(かな)

闇の夜は吉原ばかり、月夜哉(かな)

 

前者は、闇の夜でも、不夜城の吉原だけは満月の夜のような明るさである。

後者は、月夜が煌々と輝いている夜でも、吉原の女たちの身の上は闇夜である。

 永井義男『図説吉原事典』P4

 

 

本のタイトルにある通り、小説やドキュメンタリーではなく、吉原に関する資料を集めてまとめた事典本である。江戸の風俗文化を語る上で決して外すことができない吉原の実際を幅広く知ることができる。

 

吉原の大衆文化としての側面は、読んでいて面白かった。……しかし、それ以上に印象に残っているのは、吉原の暗い側面を取り上げた第7章『吉原の暗黒』である。

 

 

吉原で働く女性は、なぜ吉原で働かなければならなかったのか?

何歳まで働くことができるのか……働けなくなったらどうなるのか?

避妊はどうしていたのか?もしも病気になったらどうするのか?

吉原から逃げようとしたら、どうなるのか?

 

 

こうした疑問について、この本はある程度の答えを教えてくれる。ただし、その答えはどれも残酷な内容ばかりである。

 

吉原で働く女性は、なぜ吉原で働かなければならなかったのか?

→実質的には人身売買。

何歳まで働かなければならないのか……働けなくなったらどうなるのか?

→一般的には「年季は最長十年、二十七歳まで」。その後はーー。

避妊はどうしていたのか?もしも病気になったらどうするのか?

→正確な避妊方法など存在せず、ほぼ100%

遊女が吉原から逃げたらどうなるのか?

→徹底的な追跡。見つけたら絶望的な折檻。

 

 

 

……今の風俗嬢とは少し違うのかな?それとも、今の風俗嬢もいろいろな事情を抱えているのかしら?私はそういうのが疎いの――いや、詳しい方なのだが、これは文化史として調べてみるのも興味深いものである。(お気楽なもので)

 

 

 

 

 

 

――それにしても、ああ、なんだか落語がききたくなってきた。今日は立川談志の『紺屋高尾』で一杯。

 

 

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明日から仕事頑張ろう。ゆっくりとした文化的(笑)休暇でした。