ギザ十な日々

2人の息子と妻との日々を書いています。

走る理由がまた1つ(淀川寛平マラソン2018後半)

 

 厳密な調査をしてみると、ランナーズハイというのはかなり稀な体験であることがわかる。プロ、アマチュアを問わず、実は大半のスポーツ選手は一度もランナーズハイを経験していない。経験したことのある人でも、ときおりにすぎない。実際、長距離ランナーも長距離スイマーも、長い競技が終わるころにはたいてい疲れ切っていて、至福感どころか吐き気を覚えている。

ディヴィッド・J・リンデン

『快感回路 なぜ気持ちいいのか なぜやめられないのか』より

 

 

見えていたものが 七色に変わる時 キミはきっと手をのばしても 触れない光のようだから

きゃりーぱみゅぱみゅにんじゃりばんばん』より

 

 

 

5時。起床。

 

思いのほかよく眠れた。本当に5時の目覚まし時計のアラームでピタりと起きた。

 

起きてすぐに朝食をとる。そば2玉を茹で、そこにオモチを1つ入れる。それをおかずに茶碗一杯のご飯とふりかけ。まさに炭水化物祭りである。こんな朝食でいいのかわからないけど、とりあえず炭水化物を多めにとることを意識。

 

そして、6時半ごろに家を出て、最寄り駅である「枚方公園」駅に向かう。

 

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8時前ごろに駅に到着。これでもかと言わんばかりの青空が広がる。そして、駅前にはランナーであふれかえっていた。駅前のローソンも大賑わいである。

 

 

駅から会場までは歩いて10分足らず。行列を作りながら細道を通り抜けていく。

 

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風が多少あり、まだ肌寒い。会場についても上着を脱ぎたくなかった。周りを見ると、冬仕立ての格好のまま、走る準備をしている人も多い。

 

(走る服装……どうしようか)

 

空を見上げると、太陽の日差しを感じる。

 

(天気予報だと、今日の大阪の最高気温は20℃。この時期にしてはかなり暑くなるだろうな)

 

天気予報と己の直感を信じるならば、上半身のアンダーウェアを脱いで走るべきである。しかし、周囲に集まるランナーの統計を信じるならば、アンダーウェアを着て走るほうが正しい気もする。

 

スタート地点に立つ直前の直前まで悩む。だが最終的には上半身のアンダーウェアを脱いで走ることにした。そして、8時40分ごろ、荷物を預けてスタート地点に向かった。

 

 

さて、この日のコースはこんな感じ。

 

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(この女性は福本愛菜氏という方らしい。元NMB48で、今は吉本芸人。大会ゲストでもあった)

 

大阪の淀川沿いを走るコース。高低差はほとんどなく、ひたすら河川敷を直線的に走る感じ。私が普段走るところも河川敷なので、なんだかなじみ深い雰囲気のコースであった。

 

さて、このマラソンの最大の特徴は

 

吉本の若手芸人が一緒にコースを走る

 

という点にあるだろう。男芸人は青いシャツ、女芸人はピンク色のシャツを着ている。そして、ゼッケンを背中につけているわけだが、ゼッケンには彼らの名前とコンビ名が記載されているのである。そんな彼らと本当に近い距離で走ることができるのである。

 

……ただ、まだ駆け出しの芸人が多いのか、正直、近くで見てもよくわからなかった(すみません、最近のお笑いに詳しくない私が悪いんです)。将来、売れっ子になる方々であることは間違いない!

 

 

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さて、9時、定刻通りスタート!

 

〇スタート~10㎞ 5:50/km

 

かなり渋滞。スタート地点に到着するまでに数分かかるのはフルマラソンのお決まりである。なお、スタート地点には寛平ちゃん、サバンナ八木さん、なかやまきんに君さん、たむらけんじさんなどが応援。みんな興奮。

 

スタートした後もしばらく大渋滞となる。周りからはその状況に(笑いながら)文句を言う声が聞こえる。これもまあ、お決まり。

 

ちなみに、この『淀川寛平マラソン』、参加人数が多いのもそうだが、河川敷という事で道幅がかなり狭い。そのため、スタートから数㎞までのじれったさが余計に大きかったように思う。

 

―― 

 

数km走ったあたりで、前方から

 

ピーピーピーピー 

 

と笛の音が響く。

 

(イッタイ何事?)

 

そして、笛の音の後に

 

左側によってください!先頭集団が来ます!

 

と言う声。

 

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そして、数名、自転車に乗りながら笛を吹く方々が視界に入った。

 

 

何が起こっているのか、それは、地図を見ればわかる仕組みになっている。

 

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(え、この女性?福本愛菜だよ。知らないの?元NMB48で、今は吉本芸人やってんの)

 

右側に5㎞ほど走ると、そこに折り返しポイントがある。先頭集団であれば、17,8分程度で折り返しに達する。当然、のろのろと走っている後続集団と相対することになるわけだ。

 

前述したとおり、河川敷コースでかなり道幅は狭い。しかし、先頭集団が走るためのスペースは確保しなければならない。そのスペースを作るために、自転車に乗った運営サイドが、笛を吹きながら半強制的に後続集団を片側に寄せたのであった。

 

無論、ただでさえ狭い道幅がさらに狭くなり、後続集団はいつまでもペースを上げられない。そして

 

マジかよ!うそ!

 更に狭くなるの!?

 せんっま!せますぎやろ!

 

という声があたりから聞こえる。私自身、何度かほかのランナーにぶつかってしまう。

 

(……戸惑うな。落ち着け)

 

と、自分を落ち着かせる。

 

 ――しかし、さらに戸惑わせることが起こる。前方から

 

ぎゅー!ぎゅー!ぎゅー!

 

という声が聞こえる。声の方を見ると、なんと

 

親指

 

が走っているではないか! 

 

 

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 (……なんだなんだ?)

 

 

どうやら仮装ランナーではなく、芸人のようであった。

 

 

 「親指ぎゅー太郎」の画像検索結果

 芸名:親指ぎゅー太郎

 

親指氏はサービス精神旺盛で、ずっと「ぎゅーぎゅー」言っていた。これには笑わせてもらったが、私は、

 

(……あれをやり続けたら、俺だったら完走できないな)

 

とも思った。ともかく、そんなこんなでぎゅーぎゅーな走りを続ける。

 

 

〇11km~20㎞ 5:20/km

 

さて、10㎞あたりにたどり着いた頃、だいぶ道幅が広くなり、走りやすい状態になる。ここで今までの遅れを取り戻したい気持ちがある一方、私の中では

 

(いつもの失敗を決して繰り返してはならない)

 

という思いがあった。

 

いつも10㎞あたりでスピードを上げすぎ、後半に苦しい走りをしてしまうのである。そこを意識して、この日はスピードをあげたい欲求を極力抑え、黙々と5分20〜30秒あたりのペースを意識しながら走る。

 

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さて、前で若い男二人組が並走している。そのうちの1人の若者(若者1)が、女芸人と思われる女性に声をかけていた。

 

若者1「まじかわいいっすね!」

女芸人「あ、ありがとうございます」

若者1「一緒に走りません?勝負しましょうよ」

女芸人「ええ?」

若者1「冗談っすよ(笑)じゃあね~」

 

 と茶化しながら、女芸人を抜いて行った。私も無言で女芸人を抜き、その若者二人組の後ろを走る。

 

その後も若者1の方が女芸人に次々と話しかける。時には仮装している女性にも「似合ってますね!」だの「それかわいいっすね!」だの、声をかけまくっている。声をかけているのは女性相手ばかり。(ちなみに、若者2の方は、それを笑いながら見ている)

 

―― 私はクゲンを呈したい気持ちに駆られる。

 

(ったく、ランナーとしてそういうのどうなの?ちゃんと走るのに集中しなよ。若くてイケメンだから許されてるけどさあ?。でも、そういうの、俺はあんまり良くないと思うなぁ。俺は、あえてやらないけどさあ。けしからんなあ。全く、羨ましいなあ。……いいなあ)

 

と思いながら、たまたま同じペースなので、彼らの後ろをついていく。

 

さて、そんな若者2人の会話がたまたま耳に入る。

 

若者1「暑くなってきたな」

若者2「それで、お前はどうすんの?」

若者1「このままのペースで行くわ。だりぃけど」

若者2「行けんの?」

若者1「とりあえず、20kmあたりからつらくなるだろうけど、『ランナーズハイ』になれば余裕っしょ」

若者2「ああ」

 

 

 

 

(……ランナーズハイ、だと?)

  

 ランナーズ・ハイという言葉が耳に残って仕方がない。

 

ランナーズハイってそんな簡単になれるもんなの?ていうか、ランナーズハイって、なろうと思ってなれるもんなの?)

 

彼らに問いたい気持ちを抑えながら、モヤモヤと走る。

 

15㎞地点に到着。すると、

 

若者2「あ、じゃあ15kmだから、俺いくわ」

若者1「ああ」

 

と言い、若者2が今までのペースが嘘のように急激にスピードを上げた。若者1はそれまでのペースを維持して走る。

 

(若者2はかなりの実力者だろう。若者1もふざけてはいるが、おそらく陸上経験者かもな。脚の質が違うもんな。……それよりも、ランナーズ・ハイについて教えてくれよ!)

  

と、ランナーズハイという言葉が妙に頭に残る。

 

 

 

そんなこんなで、後半戦に突入。

 

〇 21km~25km 5:10/km

 

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スタートしてもうすぐ2時間が経とうとしていた頃、日差しはますます強くなる。厚着をしていたランナーは、端から見てもかなり暑そうであった。

 

 

このタイミングで、自分のペース状況を見ている。

 

(もうすぐ2時間か……そういえば、今日はタイムを気にしてなかったな。ペース上げすぎてるかな?いや、そうでもないかな――、まあ別にいいか。無理もしていないし、極端に手を抜いているつもりもないし)

 

いつもは数分おきに時計をちらちらと気にするのだが、今日はあまり時間を気にしていない。正直、ここあたりまであまりタイムを意識せずに走っていた。

 

ちょうど20㎞に到達するあたりで、先ほどの若者1を抜く。そして、ハーフポイントにたどり着く。ここにきても、ペースはあまり変わらない。相変わらず淡々と走るだけである。

 

 

〇26km~フィニッシュ 5:08/km

 

とりあえず、この区間のペースを最初に見ていただきたい。

 

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最後までペース維持しながら走ることができた。いつもならば30kmあたりで緩やかにペースが落ちる。そして、35㎞から急激に落ち込み、残りの2~3㎞は苦行以外の何物でもない状態になる。だが、この時は、 最後の最後までペースを落とすことがなかった。

 

――ただ、タイムという定量的なところだけではなく、いつもとは違う「何か」が私の中に生じたことを記したい。

 

 

26km地点から、なんだか周りの状況が今までとは違って見え始める。表現するのが難しいのだが、極端な言い方をすれば

 

 

前を走る人たちが皆、歩いているように見える

 

のだ。それは距離を進めれば進めるほど強く実感するようになっていった。

 

――誤解の無いよう早急に付け加えるが、もちろん、実際にみんな歩いているわけではない。苦悶の表情を浮かべながらも、ランナーは歩くことなくペースを維持して走っているのである。当然、前の方には私に抜かされることのない、私よりもずっと速いランナーがたくさんいるのもわかっている。

 

でも、私の視界に入るランナーが本当にみんな歩いているように(勘違いながら)見えたのだ。

 

ある意味、この時の心境は自己陶酔(調子乗り)に近い感覚なのかもしれない。ただ、この感覚は短期的なものではなく、フィニッシュまで続くこととなる。

 

 

先を走っていたランナーを抜くごとに、脳に興奮を伝える微弱な電気信号を感じる。そして、その陶酔感はさらに高まっていくわけである。

 

(止まらない。止まりたくない。足はツライ?全然、むしろ気持ちいい。痛み?ない。大丈夫、いくらでも行ける) 

 

 別に脚色するつもりもないのだが、本当に脚の痛みも感じなかった。呼吸も荒くなってきているのだが、それで気持ち悪さを感じることもなかった。何より、このあたりから、後続のランナーに抜かれることは一度もなくなった。そして、ただ抜くのみの時間となっていくわけである。

 

興奮覚めぬまま30km地点に到達。ここあたりで

 

(もっと興奮したい!きゃりーぱみゅぱみゅが聴きたい!)

 

という心境になる。そしてそれまで封印していたイヤホンを取り出し、きゃりーぱみゅぱみゅの『にんじゃりばんばん』を聴く。そして、更なる興奮を感じる。

 

 いつもならばタイムを気にして四苦八苦しながらペースを上げ下げする。だが、この時は

 

タイムなんかどうでもいい!とにかくこのまま走らせて!

 

という気持ちが頭を占めていた。

 

 

 

そして、そのまま、42.195㎞を走り切った。

 

 

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(ゴール近くのベンチ)

 

完走し、ゴール近くで休む。いつもならば筋肉が硬直して歩くのもままならない状態になる。気持ち悪くてスポーツドリンクも飲みたくなくなる。だが、足は普通に動くし、なんならば「もう少し走らせて!」という気持ちになっていた。参加賞としてもらったスポーツドリンクもごくごくと一気飲み。

 

 

 

興奮は走り終えた後もしばらく続いたのであった。その興奮が冷めたのは、駅にたどり着いたとき、自分が定期券を紛失してしまったことに気づいた頃であった(アホである)。

 

――

 

というわけで、今までとは少し違うフルマラソン体験であった。最後がつらいのもフルマラソンの醍醐味だけど、最後までペースを落とさずに走るのも、最高に気持ちいいと思った。

 

 

ところで、この時の昂揚感がランナーズ・ハイだったのかは――

 

 

 

……多分違うと思います(笑)

 

ランナーズ・ハイの明確な定義は、調べてみてもよくわからない。あいまいな言葉だからこそ、多くの人があいまいに使っているのだと思う。

 

ただ、ちょっと本で読む限りだと、ランナーズハイになった人は、相当に気持ちよく、脳が麻薬に支配されるような強烈な昂揚感にあるようだ。麻薬を使ったことがないのでよくわからないけど、たぶん、意識がぶっ飛ぶくらいの感覚なのではないかしら?

 

今回は……正直そこまでじゃないな。

 

後半調子が良かったのは、前半の混雑でペースが上がらなかったこと、そして、その後も調子に乗らずに体力を温存できたことが影響していたのだと思う。まあ要するに、

 

後半で体力が余っていたので、ペース維持することができた

 

ってだけじゃないかしら?わかんないけどね。

 

――ともかく、本当のランナーズハイは、おそらく今回とは比べ物にならないくらい気持ちいいはず。多分、きゃりーぱみゅぱみゅの力を借りなくてもいいくらい(笑)

 

いつか本物のランナーズハイを味わってみたい!少なくともそれを味わうまでは走り続けてみよう。 走る理由がまた1つできました。

 

 

 

 

さて、最後にタイムですが

 

3時間45分ちょいネットタイム

 

でした!

 

タイムなんかどうでもいいって思って走ったけど、そのおかげか自己ベスト更新できました!ありがとう、寛平ちゃん!

 

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目指せ、本物のランナーズ・ハイ!

 

 

おしまい!