ギザ十な日々

2人の息子と妻との日々を書いています。

まだ、自分だけのマラソン(新潟シティマラソン 2017)

 

 

ある人に合う靴も、べつの人には窮屈である。 あらゆるケースに適用する人生の秘訣などない

カール・グスタフユング

  

石ころをつかんでも地獄、燃える星をつかんでも地獄。結局、一番安全で楽しいのは、星を見上げていることだ。

伊吹有喜『ミッドナイト・バス』 

 

 

 

 

月曜日。新潟シティマラソン当日。

 

5時半ごろに起床。ビジネスホテルに前泊していたおかげで、ゆっくり眠ることができた。6時過ぎにホテルの朝食を食べ、お腹がパンパン。

 

ホテルを出て、新潟駅から会場に向かうシャトルバスに向かおうと思ったのだが――

 

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(ホテルより撮影)

 

(げ、もうかなり並んでるじゃん!)

 

ホテルの窓からシャトルバス乗り場がみえるのだが、すでに恐ろしい数の人が列を作っていた。急いで列に向かうと、さらに驚く。バス停からしばらくグネグネ曲がった後、階段を伝って駅の中まで入り込んでいたほどであった。バスはその列を無くすために、次から次へと駅にやってきた。

 

 私自身、時間に余裕を持たせてホテルを出たつもりだったのだが、会場に着いた頃には開会式10分前になり、かなり慌ただしい状態になってしまった。

 

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(スタート地点となるデンカビッグスワンスタジアム。ワオ、人がいっぱいである)

 

荷物を搬送トラックに預け、いそいそとストレッチをしながらスタート地点に向かう。

 

 

スタート地点も、まあ、人がたくさん。さすが12,000人参加規模だけある。老若男女、幅広い方々が周りを取り囲む。

 

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開会式では、市長やご当地アイドルのNegicco(ねぎっこ)、そしてマラソン界のアイドルである高橋尚子氏がご挨拶。会場がどんどん湧き上がっていく。

 

 

 

さて、今回のコースはこんな感じ。

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どうやら、2017年になり、コースが少し変更されたらしい。比較的平坦といえるコースだろうか。ただ、やはり気になるのが13㎞地点から続く「新潟みなとトンネル」くぐりである。はて、この高低差がどうでるか。

 

 

天気:曇り時々晴れ

気温:22℃前後

湿気:やや感じる

風:忘れた。でも、あんまり意識しなかったら、ほとんどなかったかも

(比較的走りやすい気候だったと思います。)

 

 

さて、スタート!

 

〇スタート~10km (5:30秒/km)

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スタートの号砲が鳴った後も、人が多くてなかなか前に進まない。ようやく走れるようになったのは2分ほど経過してから。それ以降も、50cm周辺には人がいるような密集状態。

 

スタート地点から応援が多いのが嬉しい。新潟市民のほか、高校生のチアリーディングや吹奏楽、ダンスに太鼓など目白押しである。

 

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(余談だが、大会プログラムを見てみると、応援にも力を入れているのがうかがえる。)

 

 

(こういうオマツリ感がいいんだよね)

 

とニヤニヤしながら走る。

 

一方、走りの方はというと、なかなかペースを作れずに戸惑った。5分30秒くらいで走りたいのだが、10秒前後早くなったり遅くなったりしてしまう。

 

(ちゃんと走らんと……。こういう時は、求めるペースで走っている人に付いていこう)

 

と思い、周囲を見渡すと――

 

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(あのお姉さん、良い按配に5分30秒くらいで走ってるなあ)

 

その女性は安定して5分30秒くらいを維持して走っているように思えた。そこで、その女性の後ろを、一定の距離感を取りながらついていくことにした。

 

あ、言っておくけど下心なんてないですからね。たまたまその人が綺麗でランニングウエアが大変似合っていましたが、まあ、そこは偶然です。もしもフルマラソンに不埒な感情を持ち込むようであれば、即刻退場すべきだし、飛び蹴りを食らわせる必要があると思ってますから(……でも、あの人、綺麗だったなあ)。

 

そのお姉さんを参考にしながらペースを整える。

 

〇 11km~20km (5:15/km)

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少しずつ体がほぐれて調子が上がってくる。ペースを作ってくれたくれた女性に心の中で別れを告げ、少しペースを上げる。(……どうでもいいが、ここでペースを上げなきゃよかったんだよなあ、と今になって思うわけだが。)

 

さて、気になっていた長いトンネルにいざ突中。

 

トンネルを走るなんて初めてだったのでとても新鮮。一定間隔でカラフルな照明でトンネル内が照らされるが、やはり薄暗い。人の熱気も手伝ってか、中はかなり蒸していた。汗も結構出てくる。

 

 周りの人のペースが少しずつ緩やかになる中、私のペースは快調に上がっていく。(上げなきゃよかったんだよなあ……)

 

〇 21~35㎞ (5:25秒/km)

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トンネルが二つ続いているわけではなく、1つのトンネルを超えた先に折り返し地点があった。折り返し地点にたどり着き、再びトンネルに突入。反対方向には、逆にトンネルに入ってきた人たちが走っている。

 

長いトンネルを抜けると、ようやくフルマラソン後半地点である。

 

 

長いトンネルを抜けるとそこは雪国だった

 

川端康成が記した『雪国』の舞台は新潟県であるわけだが、今回の新潟シティマラソンの場合、

 

長いトンネルを抜けると、そこは緩やかな上り坂

 

であった。

 

決して急峻ではないものの、断続的に続く坂道はじわじわと足に負担をかける。トンネルの高低差ダメージも影響し始めるところであり、周りには、少しずつ歩き始める人が現れてくる。

 

――だが、まだまだ私には余裕があった。それどころか、後半に差しかかかっても、ペースは安定、心身ともに余裕があった。

 

(俺は田沢湖のあの地獄坂を乗り越えたんだ。こんな上り坂、屁でもないわ。田沢湖は俺に翼を与えてくれたようである)

 

と大変に勇猛な心地であった。絶えることなく続く沿道の応援に、我が気持ちはどんどん高ぶっていく。

 

 

……しかし、田沢湖マラソン以降、大して練習もしていないくせに急に翼が生えてくるわけもない(練習不足でカビが生え、さらに肩こりと隠れ腰痛で腐れかかっている)。

 

幻の翼はあっという間に消えてしまう。30kmあたりで、案の定、

 

(ツラクナッテキタナ……)

 

と、アホ丸出しで「30kmの壁」に突入。30kmあたりでみるみるタイムは落ちていく。そして、今まで痛くなったことなんてなかった膝もきしみ始める。

 

心身ともにつらくなり始めたころ、前方にある女性が目に入る。

 

 

(……ん、あれは)

 

30kmをすぎたあたりだったと思うが、ちょうど高架下をくぐる場所に、あの人が待っていた。

 

 

 

 

 

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Qちゃん、その人である。疲れたランナーを応援するために、通り過ぎるタイミングでハイタッチをしていたのであった。
 

(菩薩じゃ、女神じゃ……)

 
以前、黒部名水マラソンに参加した時にも、Qちゃんのハイタッチにはお世話になった。

 

再びQちゃんとハイタッチできようとは。

 

「大丈夫大丈夫!いけるいける!」

 

と、私だけにしか理解できない言葉をかけてくれた。おそらく、この世を探しても、Qちゃんと2回もハイタッチしたことがある人間は数本の指に入る程度だろう(こうして勘違い男は増えていく)。

 

――

 

Qちゃんに勇気をもらいながらも、やはり足の痛みは治らない。

 

余談だが、ここらへんで救急車のサイレンがコースに鳴り響いていたことをよく覚えている。

 

 (自分もぶっ倒れるんじゃないかしら……)

 

と不安に駆られたのであった。気温はどんどん高くなり、気候的にもしんどくなってきた。

 

 

〇 35km~ラスト (6:00/km) 

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ペースは一気に落ちる。止まるほどつらいということではないが、足がだるい。(なぜいつもペース配分を間違えるのか、と自分を責める。)

 

歩かないことだけを特に意識しながら走り続けた。

 

最後手前の給水ポイントで梨を食べ、最後の力をふり絞る。(あの梨はとてもおいしかったです)

 

――ちょうど40㎞あたりにさしかかったあたりだろうか、後ろから大群のランナーが迫ってくる。そして、その大群はチンタラ走っている私をあっさり追い抜いていく。

 

(もういい、抜きたきゃ抜きなさいよ。私は私のペースで走るんだからね)

 

と気にも留めずにいたのだが……。

 

大群の中心で走る男性は、滑稽なフーセンの帽子をかぶっている。彼が仮装ランナーではないことはすぐに理解ができた。それと同時に、血の気が引く。

 

 

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――おなじみ、4時間ペースメーカーである。

 

 

(きゃあああああ!えっ、なんでなんで?なんでここで出てくんの?)

 

と心の中で絶叫。そして、混乱。

 

なぜならば、時計を見ながら、4時間はなんとか切れるだろうと思われる範囲でペース調整をしていたからである。それなのに、なぜ4時間ペースメーカーに抜かれなければならないのか?今一度時計をみる。やはり、4時間で行けるペースのはず。しかし、ペースメーカーはどんどん私を引き離していく。

 

 

(え、え、どういうこと?これどういうこと?と、とりあえずペースを上げないと)

 

とペースを上げようとするのだが、足が思うように動かない。足が動かない悔しさと、4時間を切れないことへのみじめさに襲われる。

 

 

涙が出そうだったが、周りの応援に励まされ、足を止めずに走り続ける。なお、ゴール間際、沿道から

 

「ここまで頑張ったんだから、歩いても大丈夫!よく頑張った!最後まで頑張るだけでいいから!」

 

という声援があった。意識朦朧ながら、個人的にはこの言葉は今でも鮮明に覚えている。すごく励まされた。……でも、ここで歩くわけにはいかなかった。

 

(歩くわけにはいがねえで……とりあえず走り切らねばならねなや)

 

と、ヘロヘロになりながらゴールを目指す。

 

 

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ゴールである新潟陸上競技場に到着。ゴール前では高校チアリーディングの応援が待っていた。その声と姿をみたら、誰だって全力疾走したくなる。最後の気力を振り絞って走り切る。

 

 

 

そして、無事にゴール。

 

 

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(ゴール周辺。みなヘタヘタであるが、笑顔の人が多い)

 

フィニッシュ後、私もゴールから少し離れたところでへたり込んでしまった。でもこの開放感がたまらない。これのために新潟に来たんだよなあ!と己の脚を撫でまわす。

  

 

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少し落ち着いて、着替えを済ませる。そして、ゴール後にもらえるヤキモチとおにぎりをいただいた。ヤキモチは焼き立てで大変に美味であった。本当に美味しくて、詰まりそうになるくらい、一気に呑み込んだ。ジャンボおにぎりは全部食べられなかったので、夕方くらいにお腹がすき始めたタイミングで美味しくいただきました。おにぎりの具?それは来年参加して一緒に確かめましょう(笑)

 

 

 さて、タイムですが、

 

約3時間59分(ネットタイムだと57分くらい?) 

 

でした。辛くも4時間切り達成!4時間ペースメーカーにはおいてかれたんですけどね(笑)

 

……それにしても、前回も3時間59分だったのだが、これはどういうことだろう?

 

4時間ギリギリ切りが己の限界で、今回も限界まで頑張った

 

もしくは

 

もっと早く走れるのに、サブ4達成以上の向上心がない

 

 ということだろうか。個人的には前者なのだが……。まあ、それは追々考えていこう。

 

さて、走り終えた後、いつもならば翌日の仕事に備え、いそいそと家路につくのだが、今回は有休をとっているので、慌てて帰る必要もない。ちょうしあわせー。ぴーやぴーや(まだ不安)。

 

――かといって、新潟で特段やることがあるわけでもない。そこで、せっかくだからと、ゴール100m前の応援に混じりながら今まさにゴールを迎えようとしているランナーたちをぼんやりと見る。

 

仮装して走りきる人たち、こんな風に参加しようと思えるサービス精神が素晴らしいと思う。……私にはなかなか難しいかな。

 

同じシャツを着てチームで参加して走る人たち。ゴール直前で同じシャツを着る人たちとハイタッチしながら完走を喜ぶ姿はとても楽しそうだ。横目でうらやましそうにチラ見する。

 

もう70歳をゆうに超えているだろうに、歩くことなくひたすらゴールを目指す人生の先輩。本当に圧巻。きっと、私なんかとは全く違う目的意識で走っているのだろう。

 

途中で足を痛めたのだろうか、足を引きずり苦悶の表情を浮かべながらゴールに向かうアスリート風ランナー。あらためて特段の問題なく走り切れた自分を褒めると同時に、フルマラソンの怖さを再認識する。今回はなんとか無事に走り切ったが、「偶然だぞ」と自分を戒めた。

 

 

――ゴール間際は色んな人のドラマを想像できて面白い。今まではフィニッシュ後にすぐ帰っていたけど、もう少しゆとりを持ってマラソン大会の雰囲気全体を堪能したいものである。今回は、このゴール間際のシーンを見れただけでも有休をとった甲斐があったというものである。(いや、本当に)。
 

 

 

――最後におまけ。別に私が書くまでもないが。

 

 

 

Qちゃんはゴール間際でもランナーたちを迎えていた。

 

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一人一人のランナーに向けて個々に笑顔と声援、そして、ハイタッチを繰り返す。

 

この方にとって、フルマラソンを1回やる以上の疲れを感じる仕事だということは容易に想像がつく。だって、約12,000人の見ず知らずの人間とハイタッチするんですから。場合によっては怖いこともあるだろうし、あえて「高橋尚子」がやることでもない仕事であろう。でも、この人はそんなことを思わせることもなく、ひたすらランナーを応援し続ける。

 

こういう姿を見ると、本当に仕事熱心な人なんだと尊敬の念を抱く。

 

ゲストなんだから当たり前だ

 

という意見もあるかもしれない。だが、それは違うんじゃないか、と思う。

 

この方、もはやマラソン界ではレジェンドQの人である。この方の活躍は、今更私がここで記すまでもない。

 

そんな人とマラソン大会でハイタッチや握手や並走できることが、一般ランナーにとってどれだけ幸せなことだろうか。それは、Qちゃんとハイタッチする人たちの嬉しそうな表情が一つの答えになるのだろう。この人は本当に多くの人に活力を与えている人なのだと思う(かくいう私も活力をいただいた1人である)。若輩者の私が言うのもおこがましいが、自分の立場と役割を的確に理解し行動に移すプロフェッショナルだと思った。そんなプロフェッショナルの仕事を遠目で見させていただきました。

 

 

 

ともかく、自分も仕事をちゃんと頑張ろうと思えたのだった。

 

 

おしまい:->:->:->:->