「まくら」営業、はじめました。

営業職の男です。「まくら」を極めて営業のタツジンになりたいのです。

うっかりな出会い

 

 

 

人生は一箱のマッチ箱に似ている。重大に扱うのはばかばかしい。重大に扱わねば危険である。

芥川龍之介侏儒の言葉』より

 

 

宇宙は偶然の産物だ。この世は必然などない、カオスだ。小さな分子が漫然と衝突を繰り返す――それが科学が示す真理だが……この意味は?この偶然は何を意味する?

Breaking Bad Season3 第10話『かなわぬ最期』より

 

 

 

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  1. うっかりミス
  2. ぼんやりしていて、しくじること。通常は起こるはずのない失敗。

デジタル大辞泉より

 

 

 うっかりミス、特に自分はよくやってしまう方だと思う。商談に使用する資料で誤字があったり、出張で髭剃りを忘れてしまったり、ETCカードがないのに高速でETCの料金通路を通ろうとしてしまったり、料理でコショウを振りかけようと思ったら中身を全部出してしまったり――多種多様なうっかりミスをしてしまう。自分のこれまでのうっかりミスを全て書き連ねたら、ノート100冊じゃ足りないだろう。

 

 

 それにしてもこの「うっかりミス」という言葉、なんとも間抜けな響きである。舌をペロッとだして笑ってごまかしている子供の顔が浮かんでくるような、なんとなくかわいらしい失敗、という感じ。ミスの状況を説明したら、

 

「ったく、しょうがないねえ、もう」

 

で済まされるようなそんな雰囲気。

 

……しかし、大人がするうっかりミスは、それではすまないことも多い。時と場合によっては、このうっかりミスによって重大な事態を招くこともある。

 

・取引先に社外秘の情報をうっかりメールで送ってしまう

・うっかりカードや現金が入った財布を落としてしまう

・免許を忘れてうっかり運転してしまう

・知人と勘違いして、うっかり見知らぬ他人を触ってしまう

 

もしも自分がこんなことを「うっかり」してしまったら、一気に絶望と自責の念に駆られることだろう。時には犯罪者になりかねない。

 

 

考えただけでも背筋が寒くなり、お腹が痛くなる。

 

……しかし、自分のうっかりミスではなく、他人のうっかりミスの場合は……どうだろう?

 

 

――

 

金曜日。

 

この日は車で外勤。午後から商談が入っていた。

昼休憩中、私は途中にある某中古本屋に車を止める。

 

 

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久しぶりに古本の物色。

 

平日の昼間の古本屋は実に閑散としている。まあ、こんな時間に立ち読みできるのも営業職の特権であろう(あ、昼休み中だからさぼりじゃないよ?)

 

 

約10分、目的の本を探すでもなくぶらぶらと店内を歩き、本の背表紙を見たり、時折気になる本をパラパラ見たりする。

 

そして、一番好きなサイエンスのコーナー へ。そこで1冊の本が目に留まる。

 

「……あ、これ」

 

少し気になっていた本。約1年前に出版されたときに購入しようと思ったのだが、その時は別の類の本を集中して読んでいたので、買うのは控えていた。

 

「これにするか」

 

と思い、その本を手に取る。ざっとみて、大きく汚れているところはないし、損傷もない。何も買わないのもつまらないので、とりあえずこの本を買おうと決める。

 

内容はある程度知っていたので、中を見ることなくレジに持っていく。そして、購入した本をかばんに入れ、私は店を出た。

 

 

――

 

土曜日。

 

いつものように洗濯をした後、軽く外を走る。走り終えたら、部屋を掃除。その後は乾いたワイシャツとハンカチにアイロンをかける。いつもの土曜日の過ごし方。

 

借りていた海外ドラマのDVDを見終わり、ぼんやりとする。

 

 

「――あ、この前買った本でも読んでみるか」

 

と思い、先日買った古本をかばんの中から取りだす。

 

とりとめもなくパラパラとめくると……。

 

 

「……ん?」

 

 

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真ん中あたりに、はがきサイズの紙が挟まっている。このサイズだとよくあるアンケートかと思われるかもしれないが、青色に染まるアンケート用紙というのは見たことがない。

 

「……おい、これって……」

 

私の中で、好奇心と良心の呵責が一気に湧き上がる。その本に挟まっていたのは、

 

 

 

 

 

 

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であった。

 

 

表紙には、会社名と名前がしっかりと書かれている。まあ当たり前だが、まったく知らない人である(これで知っている人だったら宝くじ級にすごいが)。私と多少なりとも本の趣味が合いそうな人、ということ以外はまったくわからない。

 

「コレ……やばいんじゃないの?給与明細って」

 

それにしても、なぜ私が買った本に挟まっているのか。

 

 この本を読んでいた時にしおりにしていたのだろうか?それとも偶然本に挟み込まれてしまっただろうか?いずれにしろ、(かなりの変人でないかぎり)本を売るときにチェックしなかった「うっかりミス」であることは間違いなさそうだ。(それと同時に、店側も中身をちゃんとチェックしなかったうっかりミスでもある。)

 

少し怖くなり、ネットで調べてみる。すると、意外といろいろなものが挟まっていた!という実例があることを知ることができる。中にはお金が挟まっていたり、奇妙なメモが挟まっていたりと、なかなか興味深い。

 

私自身、しばしば古本屋を利用しているが、ごくたまに写真が挟まっていたり、勉強時に使用していた付箋が挟まっていたりしたことがあった。……しかし、さすがに「給与明細書」というのは初めてであった。この偶然はいったい何を意味するのかしら?

 

「……というか、コレ、どうしたらいいの?」

 

正直、困惑している。この本を購入した古本屋に「こんなの挟まってましたよ」って言った方がいいのだろうか?それはそれでいろいろ問題がありそうな気がする……。それとも、給与明細書に書いてある会社に電話して「〇〇さんの給与明細書を偶然拾ったのですが」と言ったらいいのだろうか?(自分がそれをやられたらすごく嫌だが)

 

 

そもそも、これを挟んでしまった人は、給与明細書がまったく知らない他人の手にわたっていることを気づいているのだろうか?うっかりミスも、気づかないうちは気楽なものだが……。

 

 

結論が出ない、よくわからない出会いなのであった。

 

 

今もなお、その本に挟んだままにしてある給与明細書。本当に、どうしたらいいんだろう?

 

とりあえず、自分が同じうっかりミスをしてしまった、と仮定したら、見つけた人に何を求める……?たぶん、

 

 

中は見てもいいけど、中の情報は絶対にネットにさらさないで。見たらそのまま捨てて下さい。あと、金輪際、私にかかわらないで……。近寄らないで……。

 

 

と思う気がする。そう……じゃない?