嗚呼、コンビーフ
コンビーフは缶詰コーナーに無くてはならない商品であり、なかったら怒るよという商品なのだが、怒るけど買わないよという商品でもある。
まあ、いまどき大抵の人はコンビーフを買わない。
眺めるだけ。眺めて、あると安心するだけ。
やっぱり懐かしいのかな、かつてしょっちゅう食べていた頃が。
東海林さだお『どら焼きの丸かじり』より
月曜日。
久しぶりにコンビーフを買って食べる。
本当に、コンビーフを食べるなんて、とても久しぶり。少なくとも、5年は食べていない。大学生時代はよく食べていたんだけどなあ。
このレトロな感じに憧れていた。なんだかよくわからないけど、「イキな食べ物」だった。
値段が高いくせに量は少ない。ほかにもっと美味しいものがたくさんあったはずなんだけど、でも、つい買ってしまうのである。視野の狭い学生時代の、ちょっとした背伸びであった気がする。
久しぶりに買ってみたのは、家の近くのスーパーが改装セールで在庫処理をしていたから。そこでコンビーフが割引になっていたのである。じゃないと、あえて買いたいとも思わないよなあ。
久しぶりに実食。付属のオープナーを使って、クルクルと缶を開ける(おそらく、今の10代の80%は、この缶詰の開け方がわからないことだろう)。
ワクワクしながら塩辛い肉の繊維の塊にかぶりつく。思っていたよりもクセの強い野生的な味。ビールで流し込むが、口の中に独特の風味が残る。コンビーフさんの残り香だけでビールが進む。
決して美味しくはない。
決してインスタ映えはしない。
決して体にいいとは言えない。
決して毎日食べたい!とは思わない。
でも、唯一無二の味。私にとって。決して忘れたくない存在。
(まさに俺の学生時代だな)
酔っ払いながら、ポツンと思う(涙がほろり)。またコンビーフにかじりつく。
ーーなんだか楽しく完食させていただきました。
またいつか食べたくなるんだろうな。またいつか、この缶を手にとって、クルクルと缶を開けることだろう。
コンビーフよ、君だけは無くならないでおくれ。