挑戦四 温泉地獄・ソープ地獄、そして焼き肉地獄(別府1日ツアー)
月曜日。20時。
家の近くのガストに入る。
隣の席には、中年の男女二人組がドリンクバーのジュースを飲みながら、「ネットワークビジネス」について熱い話をしている。特に男の方は熱がこもる(有名なネットワークビジネス経営者に喧嘩を申し込んだ話、化粧品やアロマを売り込んだ話、この時代にネットワークビジネス起業する意味――)。ただでさえ暑苦しい店内が余計に暑くなるので勘弁してほしい。まあ、熱々のミートドリアとほうれん草ベーコンを頼んでしまった私にも多少問題があるが。
そんな話はどうでもよい。前回の別府旅行の続きを記そう。あの日の出来事は、隣の男のくだらぬ話(十中八九、自慢話)とは比べものにならぬほどアツイのだから。
――
8月4日(土)。
朝6時、私は船内アナウンスの声とともに目覚める。アナウンスは、レストランが開店したこと、本日の天気、到着予定時刻などを伝えていたが、ほとんど聞き取れなかった。
大浴場に行き、目覚めの朝風呂に入る。風呂には窓がついていた。少し曇っていたが、海が見渡せた。
(あと1時間ちょいくらい、かな?)
風呂を上がった後は、共有スペースに座り、朝食とともに、昨日の日記のメモを残す。
(自販機で買ったお茶と、お客さんからもらった和菓子。船の上で食べる朝食は格別でした)
(「陸だ・・・陸が見えたぞ!!」「何言ってんの、前から見えてたじゃん」「こういうのは気分だろうが」)
8時前。無事に別府に到着!
別府は初めて。でも、なんだか到着してすぐに感じる温かい雰囲気。
(別府はラグビーで浮かれております)
8時半くらいに別府駅に到着。
(さて・・・どうしよう?)
旅行プランは何一つ立てていない。ただ、昨日の夜、船の中でご飯を食べながら『るるぶ』を読んだので、なんとなく温泉が有名だと言うことは頭に入っていた。
とりあえず別府駅の観光案内所をのぞくと、
(お、これは――『るるぶ』にも載っていたやつ)
別府は温泉地獄で有名。そして、その中でも知名度の比較的高い(と思われる)7つの温泉箇所を回れる亀の井バスのバスツアーである。
ちなみに、この亀の井バスは、日本で初めて女性バスガイドを採用した会社で有名。そして、その創業者は、上の写真ではしゃいでいる銅像の油屋熊八氏である。別府人にとっては、両親の次に尊敬すべき人らしい(多分)。
なお、このバスツアー、大人一人3,650円。・・・少し高い気もする。だが、7つ回ろうとすると車で移動しないといけないし、温泉見学のための入場料(全部入ると2,000円)かかる。そう考えると、手ぶらで温泉を効率よく回れる分、妥当な値段なのかもしれない。
(よし、これでいいかな)
本来ならば事前予約が必要なのだが、観光所の担当の方に確認していただくと、まだ空きがある模様。せっかくなので利用してみることにした。
ーー
(海地獄)
(かまど地獄。この湯煙は、ピンクのおじさんが魔法のように起こしたものです)
(龍巻地獄。個人的には一番好きなんだけど、この写真だとしょぼいね。いわゆる間欠泉ってやつです。世界的にも有名な間欠泉です。写真うまい人のやつ探してみてください)
(血の池地獄。見た目は圧巻!酸化鉄と酸化マグネシウムの泥の色らしい)
全ての温泉をさっと見て、さっと去る。まあ、3時間に凝縮した団体ツアーだから、そういうもんだろうね。でも、いろんな温泉があることを知ることができたので良かったです。
(ちなみに、すべて温泉見学であり、温泉に入れるわけではない点、別府初心者たちのために残しておこう。)
温泉から別府駅までのバス道中、お土産コーナーで買ったコイツを飲みながら気分を上げる。
あっさりしていたけど、アルコール度数8%と高濃度。
――
昼過ぎ、別府駅に戻った頃には、ほんのりほろ酔い状態。心地よい気分で別府駅前をうろうろ。
すると、とある古びた建物を発見。
別府の中でも古い温泉施設、『竹瓦温泉』である。明治初期に建てられた建築物らしい。今も温泉や砂湯を楽しめるらしい。
(なんだか不思議な建物だなあ~・・・それにしても・・・)
この温泉以上に気になるのが、この温泉施設を取り巻く町並み。そう、ここあたりは別府の風俗街であった。
真夏だからだろうか、それとも、14時過ぎと退屈な時間帯だからだろうか。周りはひどく閑散としているし、ヒト気もほとんどない。実に静かである。お店も開いているのか閉まっているのかよくわからない。
(いや、本当は各建物内では騒がしいイベントが催されているのかもしれない。)
・・・先ほど飲んだチューハイが効いてきたのだろうか?頭がボーとしてくる。
(・・・俺も・・・どう?旅の恥はかき捨て?・・・どう?)
ちなみに、私は一度もこういうお店を使ったことがない。
(30歳になってこういうお店と縁が無いというのは、どうなんだろう?一種の恥じゃないの?なんでも「挑戦」する気持ちが大事なんじゃないの?)
一方で、今年は愛すべき人との結婚が待っている。こんなお店に行ったと知ったら、彼女は悲しむのだろうか。・・・悲しむだろう。
(むしろ、これが最初で最後ってことなんじゃないの?独身のうちに行っといた方がいいんじゃないの?)
しかし、彼女は?
(もう、二度といけないよ・・・?)
(40歳になってたまった性欲が爆発して、風俗狂いになるヒトもいるんだよ?だったら今のうちに体験しておいたら?)
(旅の恥はかき捨て・・・だよ?)
(誰も見てない・・・見られたって、ここは別府・・・だれも知り合いなんていやしない)
呼び込みのおじいちゃん「――いらっしゃーい。お兄さん、どうですかあ」
「・・・」
ーー
別府と言えば、そう、焼き肉である。
人口に対して焼き肉店の数が日本一多いといわれる別府。その理由はさだかではないものの、激戦区ゆえに、ハイレベルな店揃いなのだ!
『るるぶ大分 別府湯布院くじゅう’20』より
風俗街を抜けたのが15時。多くの焼き肉店は営業時間外だったが、とある焼き肉店が営業中だったので、そこに入ってみる。ちなみに飲み放題、食べ放題のお店だった。
食って食って、食いまくった。飲んで飲んで、飲みまくった。考えてみれば、この日は朝の和菓子以外、何も口にしていなかった。120分の間、何も気にせず、ひたすらに食べ、ひたすらに飲んだ。
大分名物のとり天やしいたけも食らってやった。
ニンニクのホイル焼きだってためらわずに食べました。牛タンも恥じらい無く繰り替えし頼みました。
独り焼き肉は初体験。意外といいもんですね。お店は個室になっていたから周りを気にしなくて良かったし、時間帯のせいかあんまりヒトもいなかったし――最高のひとときでした。
(・・・初体験は、1日一回で十分だよな。素敵な初体験をありがとう)
(日韓関係は大変だけど、焼き肉に罪はないからね。また来ます)
――
19時35分の出港時間は少しずつ迫ってくる。
せっかくなので、焼き肉店から別府港まで、腹ごなしに海岸沿いを歩いて向かう。
(別府タワー。立派にそびえ立ってますわ)
(私の帰りを待っていた『さんふらわあ こばると』号)
出港までの間、港の待合でぼんやり。おなかがきつくて動けなかった。18時30分頃、船に乗り込む。そして、デッキの上で夕涼みしながら出港。
夏休みの時期のせいか、ちびっ子が多くて、私には少し賑やかすぎたのが少しだけ、ほんの少しだけ・・・ね。でも、一人別府旅行、楽しかったです。これが最後の独身一人旅かな?
さよなら、別府。次に来るときは、一人旅じゃなくなるんだろうね。それは幸せなことなんだろうね。でもまあ、30歳になっても、孤独と寂しさを愛する大人になってしまうんだろうな(アホヅラ)
翌日の日曜日、8時前に無事に大阪に到着。家に着いた頃には、何か一皮むけた私がいたのであった。(日差しが強くて結構日焼けしていたからね)
以上、おしまい。
・・・もう22時半か。となりのネットワークビジネス談義はまだまだ続くらしいが、私はそろそろ帰って寝よう(明日早いしね)。