1位は彼女、2位はそれ以外の女性
ワタクシ、現在大阪某所で1人暮らしをしております。
彼女はおります。今関東に住んでいるので、いわゆる遠距離ってやつです。
遠距離も長いもので、もうすぐ3年目を迎えるところでしょうか。遠距離を続けるのは難しいとよくいわれます。――ですが我々はお互い働いているし、毎日のように電話しているから――まあ、そこらへんのカップルと大して変わらないのかもしれません(月に1回程度は会うようにしてるしね)。
とまあ、普段は別に何ともないのですが、ごくたまに発作的に生じる感情、というのもあるわけで。
――
金曜日。
新大阪駅。
私は、車で送迎のために一時的に停車できるロータリーで待機。
そして、携帯で電話をかける。
「あ、もしもし。お疲れ様です。ネクターさん、今どこらへんです?」
ネクターさん「あ、焼きいも君、お疲れー。えーっと、タクシーがズラーってある場所」
「あ、場所はあってます。タクシーの隣に乗用車の列があるじゃないですか。停車している車の列の一番ケツの方にいます」
ネクターさん「あ、なんだケツか~今行くね。あれ、ケツってどっち?あ、なんだ、こっちがケツ側か~」
「お願いします(あんまりケツケツ言うなよ笑))」
数分後。
ネクターさん「あ、焼き芋君、お疲れ~。ごめんごめん全然違うところいたね」
「すみません。わかりずらくて。本日はよろしくお願いします」
ネクターさん「いえいえ、こちらの方がお願いします」
ネクターさんを車に乗せて発進し、取引先に向かう。
この日は私の2つ上の先輩であるネクターさんと一緒に、取引先に同行営業に行くこととなっていた。
ネクターさんは普段東京にいるが、一部取引先が大阪にある。そこへ訪問するために、朝から新幹線で大阪にいらっしゃったのであった。そして、普段大阪にいる私がドライバーとして運転を務めることになった、というわけである。(別にネクターさんがレンタカーを借りて一人で回ってくれてもいいのだが、まあ、要するに?アッシー君というわけである。後輩なので文句は言えません)
余談ながら、ネクターさんは、女子力が高く、社内男性陣からも人気の容姿と人柄の持ち主。(無論、そこは関係なく)持ち前の営業力でバリバリと売り上げを伸ばし、お世辞抜きに我が営業部署の出世頭の方である。本当に、女性が活躍する時代ですね。
――
午前中の商談終了。そのまま車で次の商談先に向かう。
「お疲れ様でした。結構いい話がたくさんありましたね」
ネクターさん「ありがとう。これでひとまず、大阪に来て無駄じゃなかった、って上司に報告できそう」
「それはよかったです。次は13時からですが、移動含めると、あんまりお昼の時間がないですね」
ネクターさん「そうね。適当にコンビニとかでもいいよ?」
「すみません。それじゃ、次の取引先の近くのコンビニに行きます」
ネクターさん「うん、ありがとう。大阪らしくタコ焼き売ってたら食べようかなあ」
「あ、はい(……コンビニだよ?)」
(……ん?)
――
コンビニに到着。
「ちょっと道路混んでましたね。あんまり時間ないので、すみませんが15分くらいでいいですか?」
ネクターさん「うん。大丈夫、ありがとう。パンでも食べよっと」
「はい(タコ焼きじゃないのね)」
その車中。
パンとスムージーを買って食べるネクターさん。私はお腹の調子があんまりよくなかったので、チョコレートとお茶ですます。そして座席を倒して寝る。
ネクターさん「あ!」
「!どうしました?」
ネクター「スムージーこぼれちゃって(笑)。カバン汚れちゃった~。資料汚れてないからいいんだけど……」
「あ、とりあえずこれ使ってください。ウエットティッシュです」
車に備え付けてあるウエットティッシュ(ボトル)を差し出す。
ネクターさん「あ、いいのモッテルじゃない!ありがとう。たすかった~。ばかだよね~(笑)」
「……いえ」
(そういえば、ネクターさんって、昔からどこか抜けてたよな。昼食後の会議の時も、途中まで顔に米粒くっつけてたっけ。飲み会でもなぜか菜箸でずっと食べてたし――仕事はすごいしっかりしてるのに……これがギャップっていうやつか)。
……ん?
「……あ、じゃあ、そろそろ時間なので行きますね」
ネクターさん「うん、お願いします」
――
2件目終了。
「お疲れ様です。いい話がたくさんあってよかったですね」
ネクターさん「……はあ、落ち込むね」
「え?どこで落ち込んだんですか?今後につながりそうな話が結構あったじゃないですか」
ネクターさん「だってさ、私の笑い声のこと……あれは落ち込むよ」
「え、あれ落ち込むポイントなんですか?」
ネクターさん「落ち込むよ~。だって、べつの取引先からもおんなじこと言われたことあるもん」
「はあ」
この商談中、ネクターさんをよく知る取引先さんから
取引先「ネクターさんの笑い声はわが社でも有名ですからね。商談室で大きな笑い声が聞こえてきたら、あ、今日はネクターさんが来てるんだなあ、てみんなが思いますからね。つい商談室をのぞいて顔を出したくなりますよ」
という言葉があったのだ。
私はサザエさんみたいでうらやましいなあ、と思った。ネクターさんはそれを言われると笑ってごまかしていたが、商談終了後、急に落ち込んだ様子になったのである。
ネクターさん「気を付けないと。本当ダメ」
「ダメじゃないと思いますが。むしろうらやましいですよ。私なんて声が低いので、笑っても誰も喜ばないですからね。グヘヘヘッて気持ち悪いですから。その点、ネクターさんはパーと明るい笑い声ですし」
ネクターさん「……そういう問題じゃないんだよなあ。本当に……」
「私がいうのもなんですが、私もネクターさんの笑い声、好きですよ。なんだか元気が出ます」
ネクターさん「本当?でも、ダメ、笑い方は変えていく!これも働き方改革だわ」
「あはははは。使い方おかしくないですか(笑)じゃあ、すみません、大阪の事務所に戻りますね」
ネクターさん「お願いします!」
(……ん?俺、今、サラッとすごいこと言わなかった?)
ーー
終業後、上司と私とネクターさんで大阪らしい居酒屋に入り、食事。
上司「じゃあ、ネクターさん、大阪へようこそ。今日はお疲れー」
ネクターさん「お疲れ様です!焼きいも君、今日はありがとう。助かりました!」
「いえ。私も勉強になりました。まあ、ただのアッシー君でしたが」
ネクターさん「またドライバー役お願いね」
「どうですか。この言われようは」
上司「あははは、ひどいな(笑)」
ネクターさん「ふふふ」
普段は男性ばかりの大阪事務所のせいか、女性のネクターさんが入ると、いつもとは違う雰囲気。下ネタは控えめながら、これはこれで楽しかった。
東京に帰るネクターさんを改札で見送り、私も家に帰る。
――
家でテレビを見ながら、今日のことをぼんやり振り返る。
朝のケツケツ発言のこと、スムージをこぼしたときのこと、笑い声で落ち込んでいること、それ以外にも車の中で話したこと、夜の食事で話したこと――。
……あれ?なに、これ……?
「いやいや、そんなわけないよ。だって、俺、彼女いるしさ。ネクターさんも彼氏いるじゃん。え?何をいまさら。気持ち悪いこと思うなって(笑)」
あ、なんだケツか~今行くね。あれ、ケツってどっち?あ、なんだ、こっちがケツ側か~
スムージーこぼしちゃった(笑)
でも、ダメ、笑い方は変えていく!これも働き方改革だわ
またドライバー役お願いね
「……」
・・・・・・。
――
翌日。
起きると、精神は安定していた。
大阪は雨だったが、ウエアに着替えてランニング。
帰ってシャワーを浴び、朝食を食べ終えたころには、昨日の淡い気持ちはすっかり遠い記憶となる。
(……気の迷いか。)
日記に書いてみて思うのが、もしかしたらネクターさんの「高い営業力」とは、まさに人を惹きつけるあの雰囲気なのかもしれない。しっかりしつつも、どこかほわーっとしているところというか……あやうく身内の私まで心を奪われるところであった。
――というか、まあ、単純に私が欲求不満だっただけかな。
世の中全体がバレンタインデーで飾られているからだろうか。それとも、たまたま観た『恋は雨上がりのように』というアニメにキュンとしてしまったからだろうか。それとも、最近、タンパク質補給目的で豆乳をよく飲んでいるからだろうか。わからんけど、多分、そんなところだろう。欠乏感とは恐ろしいものでございますな(とりあえずそういうことにさせてください)。
でも、こういう感覚はたまにあると生活に張りが生まれるというものです。 ツレには基本的になんでも報告するが――これはまあ、いいかな(笑)よくわかんない日記ですね。でも、これはよくわかんなくていいんだよ!遠距離中の人なら共感してくれるはず!(だよね?)
「私がいうのもなんですが、私もネクターさんの笑い声、好きですよ。なんだか元気が出ます」