季節は『シュウカツ』
……いっそのこと、「もう地元に残ってがんばっか」なんて思うこともある。それもいいだろう。地元の方が、若者に対する目に温かいものがあるし、若者に対する需要があるから、「やりがい」を維持しやすい環境であるとは思う。なにより、両親も喜んでくれることであろう。
……しかし、もう少し東京で苦労し、それでもうまくいかなくなってから、そういう気持ちを持ちたい。
2010年前半 就職活動で最もツライ時の『私の日記』
平日、外勤で街を歩いていると、しばしば
最近、就活生が増えたよな
と思う。
別に名札があるわけでもないのに、就活生だということが一目でわかる。まあ、「新入社員」の可能性もあるが、たぶん、声をかけて「就活生ですか?」聞いたら十中八九あたっている自信がある。
着慣れていないリクルートスーツ、常に携帯電話で何かをチェックする様子、妙に統一感のあるお化粧や髪型、どことなく不安な空気感……こんなところだろうか?
移動中の電車、営業途中に息抜きで入ったカフェ、オフィス街、取引先のオフィス、そして私が属する会社の中など、私が平日過ごす場所には、決まって彼らが現れる。 いやあ、すっかり就活生もこの時期の風物詩になったなあと、他人事のようにのんきに思う(まあ、他人事だしね)。
マイナビより
3月1日から就職活動の選考が開始。まさに就活生諸君は試練の真っ只中ということか。
余談だが、数年前、私もこの就活を味わった。
久しぶりに当時の自分の日記を読み返してみると、妙な自信と不安で感情が大きくゆれ動いていたのがわかって面白い。
当時は大変だったろう。まあ、地方の田舎者が東京での内定を目指して頭と身体をフルに活用している様は、今振り返ってみると結構面白い。いつか小説にでもして出版したいものである(タイトルは『nanimono』の予定。)
ともかく、
就活生諸君、頑張ってください
と、お兄さんは温かい目で見守っています。メールいただければ先輩としていつでも優しくアドバイスするよ!(女子大生限定だよ!)
――
金曜日。
この日は昼から電車で取引先へ商談。
夕方に商談を終え、電車で会社最寄り駅に戻る。
「――あの、すみません」
駅を出たタイミングで、声をかけられる。声をかけた主を一瞥。
そこにはリクルートスーツ姿の若い女性。
「あの、私、就活セミナーの研修中でして」
「?」
「あの、それで社会人の皆様にご協力いただいて、名刺交換の練習をさせていただいているんです」
「?」
「ご迷惑でなければ名刺を交換させていただきたいんですが……」
彼女は腕に「研修中」と書かれた腕章を身に着け、手には名刺入れを持っている。
あたりを見渡すと、リクルートスーツ姿の大学生(なぜか全員女の子)が、同じように社会人に声かけをしていた。中には彼女たちのリクエストに応じ、名刺を交換している社会人もいる。
しかし、私は状況が呑み込めなかった。
(就活生なのになぜ名刺交換の練習するの?今の時代ってそうなの?)
といぶかしく思う。
私は彼女に目を戻し、彼女が今すぐにでも交換したがっている名刺をのぞいた。
(……)
おそらくダミーの名刺。意味のない情報がそれっぽく並べられていた。
「あの、いかがでしょう?」
「……あは」
私は苦笑いだけして手で断った。
――
「ただいま戻りました~」
ナタデココさん「あ、おかえりなさ~い」
オフィスには事務職のナタデココさんが内勤業務をしていた。ナタデココさんは、公私ともによく相談に乗ってくれるベテラン社員さん。40代ながら、年齢を感じさせない美魔女(笑)です。
ナタデココさんに、先ほどの出来事を話したくなる。
「お疲れ様です、……あ、ナタデココさん。ちょっとさっき変なことがあったんですよ」
ナタデココさん「なに?仕事がらみ?上司の悪口?」
「いや、相変わらずばかばかしい話なんですが――実はコウコウコウコウで、就活中の女子大生に名刺交換の練習に付き合ってください、って駅前で言われまして」
ナタデココさん「え、何それ。気持ち悪(笑)それで、焼き芋君は名刺を交換したの?」
「いや、するわけないじゃないですか。あとでネットにさらされたり、悪用されたり(お付き合いの誘いが来たり)したら怖いですし」
ナタデココさん「まあ、それが正しい判断よね」
「ですよね!いや、周りを見たら交換している社会人もいて。アレ?もしかして交換してあげるのが社会人の先輩としての使命なんじゃないか?とか思っちゃって」
ナタデココさん「本当に女子大生かどうかも怪しいじゃない(笑)」
「いや~それは間違いないと思うんですが……女性の年齢を見分ける目は確かですので。ナタデココさんも5年前まで女子大生でしたよね」
ナタデココさん「あらお上手。あ、ここから駅前が見えるんじゃない?まだやってる?」
と言って、ナタデココさんは、駅が見渡せる窓のところに向かう。
ナタデココ「あ、あれのこと!?」
「あ、そうですそうです!まだやってる」
ナタデココ「あらほんとだわ。あ、あそこの中年おじさん、今交換してるわよ」
「ね、すごいでしょ!」
ナタデココ「男ってバカよね~、女子大生に声かけられたらああやってすぐ油断するんだから」
「まあ、本当に慈善の気持ちが強い方かもしれませんが……。それにしても、交換してる社会人って、男の人ばっかりですね(苦笑)」
ナタデココ「……あれ?」
「どうしました?」
ナタデココ「あそこの女子大生見て」
「どこですか?」
ナタデココ「ほら、あそこのオブジェがある場所!警備員みたいな人に声かけられてない?」
「あ、本当だ。注意されてるんですかね?」
ナタデココ「もしかして、駅に許可を取らないでやってたんじゃない?」
「あ~あ、女の子困っちゃってるよ」
ナタデココ「……あ、なんか女子大生たちが一人の男の人に集まってきた」
「あの人が『就活セミナー』の主催者ですかね」
ナタデココ「たぶんそうね……あ、なんか警備員と話し合ってる」
「……ちょっと揉めてません?」
ナタデココ「揉めてるわね……あ、撤収してるわよ!」
「撤収してるってことは……」
ナタデココ「あんたよかったわね。名刺交換しなくて」
「そうですね、名刺交換していたら今日眠れませんでしたね……」
ナタデココ「今の時代、うかつに名刺交換もできないわねえ。気をつけなさいよ」
「うーむ、考えさせられますね。就活生も大変ですね」
ナタデココ「だから、本当に就活生だったかわかんないじゃない」
「いや、僕の目は」
ナタデココ「節穴でしょ。風通しが良いこと」
「……あはは(こういう言葉遣いにベテランを感じます)」
私が見た就活生はだます側だったのか、だまされていた側だったのか……?
ともかく、就活生諸君、就職活動中は怪しい情報が錯綜しますので、十分気をつけましょう。あ、名刺交換しちゃったベテラン社会人のおじ様たちもね。