最後に急須を使ったのは、いつ?
茶を飲むのはただ喉を潤すためじゃない その一拍の休みで心身を切り換えて自分のリズムを作る そういう場を作り出すのが「茶」だ
青木幸子『茶柱倶楽部』第一煎 旅立ちの八十八夜 より
一杯の茶のためには、世界など滅んでもいい。
今から4カ月前。
私は静岡県で行われた『しまだ大井川マラソン』に参加した。その後日談である。
走り終えた後、会場最寄り駅の島田駅に移動。そこから電車で静岡駅まで向かい、バスで大阪まで帰る流れであった。
帰りの電車を待つ間、島田駅内でランナー向けに出されていた簡易の出店をのぞく。
お茶屋「いらっしゃいませ。静岡のお茶はいかがですか~」
(静岡のお茶!)
私はその声に誘われ、そのお店を見る。
「……」
茶娘「こちら、よろしければどうぞ」
「ありがとうございます。いただきます」
試飲用のお茶を受け取る。
「ん、うまい(深蒸しか)」
茶娘「はい。こちらのお茶になります。『封切蔵茶』と言って、低温貯蔵で熟成させた独特の風味のお茶です」
「……へえ。あ、『煎茶ラテ』なんてものもあるんですね。珍しい」
茶娘「そうですね。普通は抹茶ラテですからね。こちらは、ミルクの中に煎茶パックを入れたものになります」
「……ほう。あまり見ないものですね。では、こちらを一つ下さい」
茶娘「ありがとうございます。お茶、お好きなんですか?」
「いや、好きということもないんですが、ちょっと……」
私は言おうかどうか一瞬ためらったが、走り終わった後の興奮状態も手伝ってか、口が軽くなっていた。
「実は、お茶の資格を勉強しているんですよ。今度の11月に試験があって」
茶娘「もしかして、――ですか?」
「あ、そうです。それです」
茶娘「私も――受けるんですよ!え、お茶関係の方ですか?」
「い、いえ。お茶関係ではないんですが、ちょっとお茶のことを知りたくなって……」
茶娘「そうなんですか!あ、こちら煎茶ラテになります」
「あ、ありがとうございます。試験難しそうですね。お茶関係で働いている人からすればそうでもないのかもしれませんが」
茶娘「そんなことないですよ!全然、難しいです(笑)お互い、試験がんばりましょうね!」
「ええ、そうですね(笑)じゃあ、せっかくなんでこの『封切蔵茶』1つ下さい」
ということで、その時に購入したお茶がこちら。
70℃のお湯で1分半。
深蒸し茶なのに、水色は透き通る青緑色。渋味が少なく、コクを感じられる一杯。私が普段買っているスーパーのお茶とは別物である(まあ、スーパーのもソコソコうまいんだけどね)。
さて、こんな日記を書いたということは。
そうです。お茶の試験、合格いたしました。その名も、
日本茶インストラクター
です。
日本茶インストラクターとは
日本茶インストラクターは、NPO法人日本茶インストラクター協会が認定する資格です。
日本茶に対する興味・関心が高く、日本茶の全てにわたる知識及び技術の程度が、消費者や初級指導者(日本茶アドバイザー)を指導する適格性を備えた中級指導者です。日本茶インストラクターHPより
〇活動内容
日本茶教室の開催、学校・カルチャースクール等各種講師、日本茶カフェプロデュース、通信教育添削講師、日本茶アドバイザーの育成・指導など
〇受験者
図1 日本茶インストラクター受験者の推移
日本茶インストラクターの受験者は、これまで1万3,000人以上の方々が受験しています。男女別では、初期の頃には男性が多くを占めていましたが、最近では女性の受験者が増えています。
図2 日本茶インストラクター受験者の年齢層
平均年齢は37歳で、20代から40代を中心に働き盛りの方々が受験される傾向がみられます。
〇試験スケジュール
11月中旬 1次試験 (筆記試験)
2月初旬 2次試験(茶葉鑑定試験、インストラクター実技試験、面接)
少し前にこんな日記を書いていた。
会社の長期休暇をフルに使って試験勉強を行った。実はあの時勉強していたのは、この日本茶インストラクター試験の1次試験(筆記試験)の勉強だったんですね。
基本的には日本茶にかかわる方々が受ける試験なのだが、私は特にそういう立場の人間でもない。また、恥ずかしながら、この資格の勉強をするまでは、急須で日本茶を淹れたこともほとんどない、まさにど素人だった。そのため、そもそもの基礎知識が足りず、内容はかなり難しく感じた。
でもまあ、やってみるもんですね。なんとか1次試験通過できました。そして、勉強していくうちに日本茶の世界に少しずつはまっていきました。今では、毎日会社に自分で淹れたお茶を持っていくようにもなりました。
さて、11月に1次試験を通過した後、2月に2次試験(茶葉鑑定試験、インストラクター実技試験、面接)が待っていた。
個人的には、こちらの方が難易度が高かった。特に「茶葉鑑定(平たく言うと、いいお茶と悪いお茶を見分ける試験)」は、普段あまりお茶に接する機会がないので、最初はまるでわからなかった。
それでも、いろいろなお茶を買って勉強した。今では、500円/100gと、1,000円/100gの違いくらいは分かるようになった(もっと細かいことを聞かれたらわかりましぇん)。
そして臨んだ2次試験。……結果は正直ボロボロだった。落ちることも十分あるだろうなあと思っていた。
だが、2月15日の夜、家のポストに合格通知が入っていた時、飛ぶように喜んだ。なんというか、この感覚は大学入試ぶりくらいの昂揚感だったと思う。
というわけで、わたくし、はれて日本茶インストラクターになることができました。まあ、成ったところで、何をするのかまだわかりませんが。
いずれにしても、これからももっともっとお茶の知識を深めていきたい。この日記でもお茶のことをもっと書いていけたらいいけど……まあ、まだ素人に毛が生えた程度なので、あんまり語ったら恥かくだろうな(笑)
さて、お茶を淹れながら、ふと、上記の島田駅での出来事を思い出した。
あの時
「私も日本茶インストラクター受けるんですよ!」
と言っていた茶娘は、結果はどうだったんだろうか。またどこかで会えたら面白いなあ、なんて思いつつ……あの時買ったお茶を味わう休日であった。
――ああ、なんだかお茶に癒されてるう。
ゆっくり会話を楽しもう
妻「ねえ、どうして話をしないの?」
夫(ショペンハウエルの読書か「出馬予想」の耽読をさまたげられて)「うむ?」
妻「どうして話をしないの?」
夫「別に話すこともない」
妻「愛していないからよ」
夫(すっかり邪魔され、イライラして)「ばっかなことを言いなさんな。(突然、論理で言い負かそうと懸命になり)おれがほかの女と付き合っているかい?給料も渡しているだろ?お前と子供たちのために骨身を削って働いとらんのかい?」
妻(論理的には納得したが、なおも満足しない)「でも、何か話してもらいたいのよ」
夫「なぜさ?」
妻「なぜ、でも」
もちろんある意味では夫が正しい。かれの行動そのものは愛の外在的表示になっている。それはコトバよりもたしかである。けれど別の意味では妻が正しい。話がつながっていなければ縁がつながっていないような気のするのも、無理はない。
とある書物第4版 より引用
毎日のようにツレと電話をする。
ツレ「でね――それがさーーってわけ。でもさ、――だから――っておかしくない?」
「うん」
ツレ「というかさ――なわけ――理解できないからさ――でもさ――わけなのよ」
「ほう」
ツレ「……ちょっと、ちゃんと聞いてる?」
「もちろん」
ツレ「テレビ見てるでしょ」
「うん」
ツレ「バカ!」
プツン。
こんなことは日常茶飯事である。まあ、これは私のコミュニケーション能力の低さによるものなのだが、ツレの話を聞いているようで聞いていないことが多いわけである。正確に言うと、聞いてはいるのだが、途中から何を言いたいのかわからなくなる、のである。
その主語は何?なぜそう思うの?そのオチは?そこからあなたはどう考えたの?
最初はこんな問いかけをよくした。だが、彼女のとって、こういう質問が何の意味もないことを3年くらい前に学んだ。それからは、会話をするというより、いかにして彼女の話を止めないようにするかを意識するようになった。……まあ、上の会話の通り、失敗することが多いのだが。
――
月曜日。朝。
歩いて20分くらいのところにある美容院に行く。
美容師「いらっしゃいませ~お荷物お預かりします。こちらへどうぞ~」
髪を切ってくれたのはおそらく私より少し年下の方。
美容師「じゃあ、よろしくお願いします。外、寒くないですか」
「寒いですね」
美容師「私住んでいるところなんて、雪が積もってましたから」
「へえ、そんなにですか」
美容師「車の上にも積もってて」
「へえ」
別に中身があるわけではない会話。
基本的には、私はあまりこういう場で会話を弾ませたいとは思わない。髪を切ることに集中してほしいし、そもそも人と会話するのがめんどくさい性格なのである(営業やめちまえ)。
いつもならば、ここらへんで相槌の程度を下げ、相手が黙るような空気を作る。
――しかし、なぜだろう。この日は妙に相槌を打つ私がいた。
「たしかに、通りにあった水たまりにも氷が張ってましたね。冬はなかなか終わってくれないですね」
美容師「本当にそうですね――。もうすぐ春なんですけどね」
「本当に。実は、今日も寒いから髪を切りたくないんですが、社会人なのでしょうがないですね(笑)」
美容師「あはは、そうですね(笑)――それでは、今日はどれくらい切ります?」
「全体的にさっぱりしたいのですが。1か月半くらい前に切ってもらったので、その時くらいですかね」
美容師「わかりました。あ、その時も私が切ってましたよね」
「あ、たしかそうですね!あの時に切ってもらったのが良くて、また来たんですよ」
美容師「あ、本当ですか!ありがとうございます。では始めさせていただきます」
その後も、会話は続く。
「――周りが髪を切ったことに気づけないんですよね。これをスマートに気づけるようになりたいんですが。なかなか……」
美容師「ああ、気づく人は気づきますよね」
「当然、美容師さんは気づきますよね」
美容師「そうですね。それはわかりますよね」
「でも……どうやったら気づけるようになるんでしょう?」
美容師「うーん、そうですね。やっぱりその人のことをよく観察することじゃないですか?うん、そうそうそう。でも、気づいてもらったらやっぱり嬉しいんですよね。あ、この人、私のこと見てくれているんだ、って思いますし」
「でも、人にもよるんじゃないですか?ぼくみたいなのが若い子に『髪切った?』って言ったら、『うわ、きもっ』って思いません?」
美容師「思わないですよ(笑)でも、人にもよるでしょうね~(笑)ははは」
「ははは。僕が後輩の女の子とかに『髪切った?いいねいいね、かわいいね。かわいいかわいい』なんて言ったら、ちょっと引かれそうな気がしますけどね」
美容師「まあそれは引かれるでしょうね(笑)――あ、だったら『雰囲気変わったね』って言ったらいいと思いますよ。あとは『親しみやすい感じになったね』とか。うん、そうそう」
「あ、なるほど。そういう言い方すればいいのか。ああ、なるほど。それは、良いこと聞いた」
美容師「うん、そうそう!是非言ってみてください!それで嫌がるコは多分いないと思いますよ?」
「今度試してみます。でも、本当に、後輩の女の子の気持ちがわからないんですよね」
美容師「そうなんですか?」
「はい。この間も、『スイーツバイキング行きました!』とか嬉しそうにいわれたんですけど、正直、スイーツバイキングの何がいいのかわからなくて。甘いものは好きな方ですが、ホールで食べたとか聞くと、ちょっと……」
美容師「あはは。そういうの好きなコは好きですからね。結構人気で、予約しないと入れないところも多いみたいですよ」
「へえ、そうなんですか」
美容師「うん、そうそうそう」
「――あ、ちなみにそのコ、ある時、誰が見てもわかるくらい、髪をバッサリ切ってきたんですよ。『あれ失恋したのか?』って思っちゃいましたね」
美容師「ああ、よく言うやつですよね。でも、髪を一気切るのと失恋って、ほとんど関係ないですからね(笑)」
「あ、やっぱりそうなんですか?」
美容師「そうですよ~おじさんが言っているだけです(笑)私もこの前、お客さんのロングヘアをバッサリ切りましたけど、単なるイメチェンでしたからね」
「ほう、へえ」
美容師「髪を一気に切ると、本人も、周りからなんて思われているのか気になるから、それこそ、『雰囲気変わったけど、似合ってるね』って言ってあげれたらイイと思いますよ」
「なるほどねえ。確かにそれはスマートですね」
美容師「うん、そうそうそう。そういえば、この前私が髪切った人は、『インスタで髪が一気に変わったとこあげたい』って理由でバッサリ切ってましたよ」
「ああ、インスタね。あれもまだ理解が追い付かないんですよね」
美容師「あははは」
「アレもすごいですよね。よく自分の顔をネットに公開できますよ。私のこの顔じゃ、絶対にネットにあげられないですからね。美女やイケメンはすごいですよ。うらやましい」
美容師「なにを言ってるんですか(笑)」
「本当に(本当に)」
美容師「でも、私は顔よりもやっぱり中身ですね。イケメンでも中身が空っぽだったら、バカじゃないの?って思いますからね。優しいとか気配りできるとか――やっぱり中身ですよ。うん、そうそう」
「なるほどねえ。でも、実はイケメンの方が優しくて気配りもできるんですよね(笑)」
美容師「そんなことないですって!それは関係ないですって」
「そうですか?」
「本当に、ちょっと乾燥してたらさりげなく飲み物をくれたりとか、寒そうにしてたらさりげなくエアコン温度上げるとか、重い荷物持ってたらさりげなく代わりに持ってあげるとか。顔なんかより、そういうささやかな優しさの方がいいんですよ」
「……まあ、それが意外と難しいんですよね。なんでだろ、そういうのって、お子さんがいるような、どちらかというと母親の方に近い女性先輩の方だったら気づけたりするんですけどね(まあ、たまにだけど)」
美容師「是非、年近いコにもやってあげてください!絶対喜ばれますから!うん」
と、まとまりのない話を続ける。最終的には美容師さんがジャムづくりが趣味だというところで話が終わった。
美容師「はい以上です。お疲れ様でした~」
「ありがとうございました。さっぱりしました」
美容師「じゃあ、後輩さんにいろいろ言ってみてくださいね!気持ちは伝わるはずです!」
「(……ん?)ええ、ははは。またお願いします」
ちょっと待て、なんだか俺が後輩のことが好きみたいになってるじゃんか。まあ、別に美容師さんも次会うころには忘れているだろうから、別にいいんだけど。
しかし、今日は妙に話が続いたなあ。髪を切ること以外何もやることがなくて、気持ちに余裕があったからかしら?でもまあ、黙っているよりも意外と楽しいひと時であった。
ツレの電話でも、こうできたらいいんだよなあ。--でも、慣れている相手だと難しくなるんだよなあ。なんて思った帰り道であった。
この日記を「中身がない」と切り捨てるそこの旦那、ちゃんと奥さんや愛人を大事にしてるかい?……なんてね。
1位は彼女、2位はそれ以外の女性
ワタクシ、現在大阪某所で1人暮らしをしております。
彼女はおります。今関東に住んでいるので、いわゆる遠距離ってやつです。
遠距離も長いもので、もうすぐ3年目を迎えるところでしょうか。遠距離を続けるのは難しいとよくいわれます。――ですが我々はお互い働いているし、毎日のように電話しているから――まあ、そこらへんのカップルと大して変わらないのかもしれません(月に1回程度は会うようにしてるしね)。
とまあ、普段は別に何ともないのですが、ごくたまに発作的に生じる感情、というのもあるわけで。
――
金曜日。
新大阪駅。
私は、車で送迎のために一時的に停車できるロータリーで待機。
そして、携帯で電話をかける。
「あ、もしもし。お疲れ様です。ネクターさん、今どこらへんです?」
ネクターさん「あ、焼きいも君、お疲れー。えーっと、タクシーがズラーってある場所」
「あ、場所はあってます。タクシーの隣に乗用車の列があるじゃないですか。停車している車の列の一番ケツの方にいます」
ネクターさん「あ、なんだケツか~今行くね。あれ、ケツってどっち?あ、なんだ、こっちがケツ側か~」
「お願いします(あんまりケツケツ言うなよ笑))」
数分後。
ネクターさん「あ、焼き芋君、お疲れ~。ごめんごめん全然違うところいたね」
「すみません。わかりずらくて。本日はよろしくお願いします」
ネクターさん「いえいえ、こちらの方がお願いします」
ネクターさんを車に乗せて発進し、取引先に向かう。
この日は私の2つ上の先輩であるネクターさんと一緒に、取引先に同行営業に行くこととなっていた。
ネクターさんは普段東京にいるが、一部取引先が大阪にある。そこへ訪問するために、朝から新幹線で大阪にいらっしゃったのであった。そして、普段大阪にいる私がドライバーとして運転を務めることになった、というわけである。(別にネクターさんがレンタカーを借りて一人で回ってくれてもいいのだが、まあ、要するに?アッシー君というわけである。後輩なので文句は言えません)
余談ながら、ネクターさんは、女子力が高く、社内男性陣からも人気の容姿と人柄の持ち主。(無論、そこは関係なく)持ち前の営業力でバリバリと売り上げを伸ばし、お世辞抜きに我が営業部署の出世頭の方である。本当に、女性が活躍する時代ですね。
――
午前中の商談終了。そのまま車で次の商談先に向かう。
「お疲れ様でした。結構いい話がたくさんありましたね」
ネクターさん「ありがとう。これでひとまず、大阪に来て無駄じゃなかった、って上司に報告できそう」
「それはよかったです。次は13時からですが、移動含めると、あんまりお昼の時間がないですね」
ネクターさん「そうね。適当にコンビニとかでもいいよ?」
「すみません。それじゃ、次の取引先の近くのコンビニに行きます」
ネクターさん「うん、ありがとう。大阪らしくタコ焼き売ってたら食べようかなあ」
「あ、はい(……コンビニだよ?)」
(……ん?)
――
コンビニに到着。
「ちょっと道路混んでましたね。あんまり時間ないので、すみませんが15分くらいでいいですか?」
ネクターさん「うん。大丈夫、ありがとう。パンでも食べよっと」
「はい(タコ焼きじゃないのね)」
その車中。
パンとスムージーを買って食べるネクターさん。私はお腹の調子があんまりよくなかったので、チョコレートとお茶ですます。そして座席を倒して寝る。
ネクターさん「あ!」
「!どうしました?」
ネクター「スムージーこぼれちゃって(笑)。カバン汚れちゃった~。資料汚れてないからいいんだけど……」
「あ、とりあえずこれ使ってください。ウエットティッシュです」
車に備え付けてあるウエットティッシュ(ボトル)を差し出す。
ネクターさん「あ、いいのモッテルじゃない!ありがとう。たすかった~。ばかだよね~(笑)」
「……いえ」
(そういえば、ネクターさんって、昔からどこか抜けてたよな。昼食後の会議の時も、途中まで顔に米粒くっつけてたっけ。飲み会でもなぜか菜箸でずっと食べてたし――仕事はすごいしっかりしてるのに……これがギャップっていうやつか)。
……ん?
「……あ、じゃあ、そろそろ時間なので行きますね」
ネクターさん「うん、お願いします」
――
2件目終了。
「お疲れ様です。いい話がたくさんあってよかったですね」
ネクターさん「……はあ、落ち込むね」
「え?どこで落ち込んだんですか?今後につながりそうな話が結構あったじゃないですか」
ネクターさん「だってさ、私の笑い声のこと……あれは落ち込むよ」
「え、あれ落ち込むポイントなんですか?」
ネクターさん「落ち込むよ~。だって、べつの取引先からもおんなじこと言われたことあるもん」
「はあ」
この商談中、ネクターさんをよく知る取引先さんから
取引先「ネクターさんの笑い声はわが社でも有名ですからね。商談室で大きな笑い声が聞こえてきたら、あ、今日はネクターさんが来てるんだなあ、てみんなが思いますからね。つい商談室をのぞいて顔を出したくなりますよ」
という言葉があったのだ。
私はサザエさんみたいでうらやましいなあ、と思った。ネクターさんはそれを言われると笑ってごまかしていたが、商談終了後、急に落ち込んだ様子になったのである。
ネクターさん「気を付けないと。本当ダメ」
「ダメじゃないと思いますが。むしろうらやましいですよ。私なんて声が低いので、笑っても誰も喜ばないですからね。グヘヘヘッて気持ち悪いですから。その点、ネクターさんはパーと明るい笑い声ですし」
ネクターさん「……そういう問題じゃないんだよなあ。本当に……」
「私がいうのもなんですが、私もネクターさんの笑い声、好きですよ。なんだか元気が出ます」
ネクターさん「本当?でも、ダメ、笑い方は変えていく!これも働き方改革だわ」
「あはははは。使い方おかしくないですか(笑)じゃあ、すみません、大阪の事務所に戻りますね」
ネクターさん「お願いします!」
(……ん?俺、今、サラッとすごいこと言わなかった?)
ーー
終業後、上司と私とネクターさんで大阪らしい居酒屋に入り、食事。
上司「じゃあ、ネクターさん、大阪へようこそ。今日はお疲れー」
ネクターさん「お疲れ様です!焼きいも君、今日はありがとう。助かりました!」
「いえ。私も勉強になりました。まあ、ただのアッシー君でしたが」
ネクターさん「またドライバー役お願いね」
「どうですか。この言われようは」
上司「あははは、ひどいな(笑)」
ネクターさん「ふふふ」
普段は男性ばかりの大阪事務所のせいか、女性のネクターさんが入ると、いつもとは違う雰囲気。下ネタは控えめながら、これはこれで楽しかった。
東京に帰るネクターさんを改札で見送り、私も家に帰る。
――
家でテレビを見ながら、今日のことをぼんやり振り返る。
朝のケツケツ発言のこと、スムージをこぼしたときのこと、笑い声で落ち込んでいること、それ以外にも車の中で話したこと、夜の食事で話したこと――。
……あれ?なに、これ……?
「いやいや、そんなわけないよ。だって、俺、彼女いるしさ。ネクターさんも彼氏いるじゃん。え?何をいまさら。気持ち悪いこと思うなって(笑)」
あ、なんだケツか~今行くね。あれ、ケツってどっち?あ、なんだ、こっちがケツ側か~
スムージーこぼしちゃった(笑)
でも、ダメ、笑い方は変えていく!これも働き方改革だわ
またドライバー役お願いね
「……」
・・・・・・。
――
翌日。
起きると、精神は安定していた。
大阪は雨だったが、ウエアに着替えてランニング。
帰ってシャワーを浴び、朝食を食べ終えたころには、昨日の淡い気持ちはすっかり遠い記憶となる。
(……気の迷いか。)
日記に書いてみて思うのが、もしかしたらネクターさんの「高い営業力」とは、まさに人を惹きつけるあの雰囲気なのかもしれない。しっかりしつつも、どこかほわーっとしているところというか……あやうく身内の私まで心を奪われるところであった。
――というか、まあ、単純に私が欲求不満だっただけかな。
世の中全体がバレンタインデーで飾られているからだろうか。それとも、たまたま観た『恋は雨上がりのように』というアニメにキュンとしてしまったからだろうか。それとも、最近、タンパク質補給目的で豆乳をよく飲んでいるからだろうか。わからんけど、多分、そんなところだろう。欠乏感とは恐ろしいものでございますな(とりあえずそういうことにさせてください)。
でも、こういう感覚はたまにあると生活に張りが生まれるというものです。 ツレには基本的になんでも報告するが――これはまあ、いいかな(笑)よくわかんない日記ですね。でも、これはよくわかんなくていいんだよ!遠距離中の人なら共感してくれるはず!(だよね?)
「私がいうのもなんですが、私もネクターさんの笑い声、好きですよ。なんだか元気が出ます」
自由からの迷走
人は自由を得たのち、いくらかの歳月を経過しないと、自由を用いる方法を知らないものだ。
トーマス・マコーレー
2月4日。昼過ぎ。
試験官「はい、以上になります。皆様お疲れ様でした」
(……嗚呼、終わっちゃった)
――
帰り道。会場から駅までの間、ツレに電話。
「あ、もしもし」
ツレ「あ、もしもし。試験、どうだった?」
「うん、かくかくしかじかって感じ」
ツレ「あ、そう……まあお疲れ様。今日はゆっくり休みなさいよ。これからどうするの?」
「……うーん、とりあえず、家に帰る」
ツレ「どこかに寄らないの?」
「別に寄りたいところもないしね。今は何にも考えたくない。――じゃあ、電車乗ります」
本日はとある試験があった。結果は正直よくわからない。ただ通知を待つのみである。
――
帰りの電車、悶々と時間を過ごす。昂揚感があるのに、なんだか気持ちが晴れないというか、そわそわするというか、じっとしていられないというか、だれかと話したいけどやっぱり話したくないというか、……。
(――なんか、今、無性に叫びたい)
思春期のころって、毎日こんな気分だったのだろう。多分だけど。
ーー
店員「あ、すみませ~ん。今フリータイムで全部屋使用中でして~」
「……あ、そうですか。わかりました」
店員「またのお越し、おまちしておりまーす!」
「ええ(カラオケに行こうなんて思うこと、もうしばらくないからな!)」
カラオケでこのモヤモヤ感を発散!――いいアイデアだと思ったのだが。
――
帰り道、あるカフェに入る。
少し遅めの昼ごはんということで、ホットドッグとコーヒーを注文。ホットドッグが運ばれるまでコーヒーを飲みながら一服。
(せっかくだし、ゆっくりと日記でも書こうかな。文章にすれば気分が晴れるかもしれない)
日記を書こうと思ったその時、
店員「いらっしゃいませ~」
い「あ、空いてる空いてる!」
ろ「ラッキーっすね!全員入れる入れる」
は「注文まとめて頼んじゃって~」
に「人数分って、みんなブレンドコーヒーでいいの~?」
ほ「いや、あたしミルクティーにして~」
へ「私抹茶ラテね」
と「俺、なんか食いたいなあ」
ち「俺、ホットドッグ食いてえ」
り「私パスタ食っちゃおうかな」
ぬ「ねえ、ここwifi使える?」
る「おれタバコ吸ってくる」
を「あ、おれもおれも」
がやがやと店内に入ってくる若者たち。私が入ったときにはほとんど客がいなかったのに、周りを見渡すとすっかり満席状態。私の席の周りを若者が取り囲む。
(……)
店員「ホットドッグ、お待たせいたしました」
(……)
私はホットドッグを早々に平らげ、コーヒーを一気に飲み干す。そして、店を出る。
店が悪いんじゃない。若者たちが悪いわけでもない……んだけどね。
――
家までの帰り道、何か気分が晴れそうなものを探す。
(マンガ喫茶って気分でもないし、パチンコは面白さがわからないし、昼から酒を飲むほど大人じゃないし、かといってまたカフェに入るのはバカバカしいし。そもそも、さっきホットドッグ食べたから何も食べたくないし。どこか遠くに行く気力もないし、本を読む気にもなれないし、DVD借りに行くのもめんどくさいし、女の子の店は……聖人なのでよくわかんないし)
と、歩いていると
「うわ!……びっくりした……」
鳩のナキガラを見つける。鳩はよく見かけるが、ナキガラ姿は初めて見た。
(……これってなんだか、ついてないなあ。……やっぱり帰ろ)
心の中で手を合わせ、結局、帰宅。
――
試験前まで使用していた資料などを片付け、ぼんやりとテレビを観る。時間はみるみる過ぎていく。
(――あ、クリーニング取りに行くの忘れてた)
近所のクリーニング店に行ってワイシャツを引き取りに行く。その帰り道、ふと、
(……日記、やっぱり書こうかあ)
と再び思う。
――
晩御飯を食べながらこの日記を記す。晩御飯はビールとスナック菓子と冷や奴(1丁)。あとはメインデッシュで鶏のモモ肉ステーキ(塩コショウを振ってオーブンに放り込んだだけ)。
……地味すぎる自由の使い方。でも、試験が終わった後のビールはこれまた美味いから、まあ、いいのかな……あぁ。
以上、文章の通り、気の抜けた状態です。イベント終了後にパーッとできる人がうらやましいなあ。私もできれば欲望を全開にしてみたいものである。まあ、全開にしたらしばらく解放しっぱなしになっちゃうから、ある意味、今の状態くらいの方がいいのかもしれませんが。
また頑張れる何かを探さないと……あ、英語以外がいいかなあ(笑)
なまけてません
前回日記を記したのが、1月9日。そして、本日は1月28日。……約20日間、すっかり日記をさぼってしまった。
年始に
日記を習慣づける!
と目標設定していたのだが、我ながら実に情けないところである。
……ただ、日記をさぼっていたからと言って、実生活もさぼり気味だったわけではない。それどころか、1月は、なんだかいろいろと頑張っていました!いました!
〇ジョギング!
今年はマラソンに本気を出す!
という思いのもと、とりあえず月間走行距離を150㎞を目標設定した。……まあ、さぼり癖のある私からすれば、それなりの設定である。100㎞/月走ることもほとんどなかったからね。
そして、ほら!
今日段階で165㎞!意外と頑張ってますでしょ?若いのに見込みがあるねえ。ほいほいほーい(酔っ払い)。
明日も走るぜよ!目指せ毎日ラン!
〇とある試験!!
少し前、とある資格取得のための試験を受けることを書いた。
11月に1次試験があった。ハードルが高めなので、正直受ける前から不合格を覚悟していた。が、まあ幸運なことに、実はこの試験の1次試験をパスしていた。1次試験通過通知が届いたときには、
と家の中で叫んだものである。(騒音レベルであったと思われる)
そして、この資格の2次試験が2018年の2月上旬にある。なんとか2次試験をパスするべく、1月はちょっとだけ勉強に精を出していたのである。ただ、面接や実技試験があるので、人見知りの私にはちょっとねえ……。
何の資格かは、、、もし受かることができたら是非書きたいと思います。不合格だったら絶対書かないからね(臆病者)。
〇TOEIC!!!
そして、TOEIC。これも昨年末にちょっと書いた。
会社からTOEIC受験を命じられていた。
受験は2018年1月。これまでほとんど勉強していなかったが、最後の悪あがきで1月中はちょっとだけ頑張って勉強した。走っているときも英語のリスニングをしたり、仕事終わりにカフェに行って英語の勉強をしたりした。
でもまあ、英語は、一夜漬けのように直前に頑張ってもなんとなるようなものではないことを改めて感じた。一夜漬けができないから、昔から英語が苦手だったんだよなあ(笑)
そして、本日1月28日(日)がTOEICの試験日だった。
大学が受験会場。気のせいか、受験生も大学生風の方々が多かったような。
当初目標としていたのが600点以上。ただ、まあ……600点取れるような感触は得られなかった。最後は時間が足りず、慌ててマークシートを塗りつぶしたしね。もう、敗北感たっぷりである。
でも、TOEIC勉強を通し、少しずつではあるが、英語の楽しさを感じ始めている。今回の点数がいかなるものであれ、英語の勉強は続けてみよう。長い目で英語の力を養えたら……!なんて思っている日曜日の夜です。
というわけで、別に正月ボケが長引いて日記をさぼっていたわけではないのでしたっていう、言い訳&日記リハビリでした。
2月上旬の試験が落ち着いたら、日記も頑張るからね!本当は書きたいこともいっぱいあったんだから!
とりあえず2月は日記強化月間に設定して、日記を書きまくりますからね!(とか言って)
朝ラン族にあこがれて
朝寝は時間の出費である。しかも、これほど高価な出費は他にない
5時30分。
ピピピ!ピピピ!!ピピピ!!!
「……っ、うっさいなあ」
枕もとの置き時計のアラームを消す。
外はまだ真っ暗。乾燥した部屋のせいで喉はカラカラ。何か飲みたい衝動に駆られたが、起きるのが面倒だったので、そのまま二度寝。
早朝ランニングを習慣とした『イケてるランナー』になる
という、2018年1月初旬に立てた目標は、睡魔の前にあっけなく散ったのであった。
――
ロクジロクジロックジー ロクジデス テテテ テテテ テッテテ テテテ テテテ テッテテ (NHK『おはよう日本』オープニング曲)
「……うーん」
アナウンサー「おはようございます。1月9日火曜日、6時になりましたNHKニュース『おはよう日本』です」
「6時!ああ、どうしよう」
我が家のテレビは、朝6時に自動で電源が入るよう、タイマー設定している。そして、6時にNHKの『おはよう日本』のテーマソングで目を覚ますことになっている。いつもはそこからウダウダと布団にもぐりながら、NHKのニュース音声を聴き、そして、大体7時近くに布団から出るのである。このウダウダタイムが至福であり、甘ったれた誘惑に満ち満ちたひと時なのである。
ただ、この日は
(このまま起きようか、それとも今から走るか……どうしまじろう)
と悩む。
(今から走ったら、家に帰ってくるのが7時すぎか……。7時から洗濯してたら家を出るのが8時過ぎになるよなあ……でも、昨日走るって決めたしなあ……。会社まで大体40分だから、今から走ったらぎりぎり出社になってしまうよな。若手がそれはまずいよなあ。でも、走りたいよなあ。なんで5時半で起きなかったんだよう……)
と、ウダウダと布団の中でもがく。
結局、20分ほどしてから走るに至る。着替えを済ませ、軽くストレッチをし、ゆるゆるとランニング開始。人気の少ない河川敷に向かう。
今日は曇天だったせいか、6時半でもまだ夜のように暗かった。しかし、7時くらいになると、少しずつ空が青くなり始める。この瞬間がたまらない。走ったことによる高揚感も手伝い、今日という一日が始まることに心の底から喜びを感じることができる。
(やっぱり、朝走るのはたまらんなあ!)
と走りながら体中で感じる。
走り終えて家に着いたら、ゆっくりとシャワーを浴びる。ウェアを洗濯(お急ぎモード)し、その間に朝食の目玉焼きと味噌汁とご飯を用意。もちろん、手作りのヨーグルトも欠かせない。
食べ終えたら食器を洗い、会社にもっていくお茶淹れ、マグボトルに注ぐ。……え?コンビニのお茶で十分?いいえ、今日という一日を最大限に楽しむためには、やっぱり自分で淹れたお茶じゃないと、いけないよね。だって、これが私が大切にしている唯一のコダワリ、なんですもの。
――嗚呼、なんて充実した一日かしら。今日も素敵な一日になりそう。
――
始業時刻1分前。(リアル)
「お、おはようございます!すみません、ぎりぎり出社です!」
課長「おはよう」
ナタデココさん(事務)「どうしたの、朝から慌ただしく」
「ハアハア――すみません、ちょっと慌てて家を出たもので」
課長「なんだ、寝坊か?」
「いえ、ちょっと洗濯機にトラブルがありまして……。朝に洗濯をしたんですが、洗濯機のフタを閉め忘れていて、洗濯工程が途中で止まってしまっていたみたいで、それでで……」
キーンコーンカーンコーン
ちょうど、始業の鐘が鳴る。
「とりあえず脱水だけ済ませて服を干していたら、あっという間にこんな出社時間になってしまいました……」
ナタデココさん「あらまあ。朝から間抜けなんていやあねえ。洗濯機の蓋閉め忘れるなんて、寝ぼけてたんじゃないの?」
「……こんなはずじゃなかったんですが……。いやいや、1個でも信号に引っかかっていたら、完全にアウトでした。新年早々、要反省です」
ナタデココさん「なんとまあ、いやあねえ。こういうことが朝からあると、一日中嫌な気持ちになるのよね(笑)まあ、ぎりぎり間に合ったんだから問題ないわよ」
課長「うん、それより、お前、○○の書類出したか?今日の午前中まで提出だからな」
「……至急に。取り急ぎ」
できるランナーには程遠い、朝ランニングなのであった。明日からは目覚ましを5時に設定しよう。
と言いつつ、時計を見るともう23時半。こんな時間まで日記を書いているうちは――難しいかな(笑)
つながる走り・走るつながり
Q30: 仲間と一緒に走ったほうが速く走れるようになれますか?
A:本当は一人がいい。でも、たまには仲間で走るのもいいよね。
小出義雄『知識ゼロからのジョギング&マラソン入門』より
2018年になりました。
大阪に転勤になったのが2016年の春。大阪生活も今年で3年目に突入します。
元々、東北の田舎者である私にとって、大阪は「悪い意味」で近寄りたくない場所でした。大阪で東北出身の人間を見つけるのが難しいのも、大阪と東北が合わない証拠だと思ってました。引越した当初は、お笑い番組やワイドショーや下町巡りが一日中やっていることにすら、嫌気がさしていたものです。
ですが、いつの間にか、大阪の親しみやすく温かい雰囲気が、とても好きになっていました。吉本新喜劇もよく観るようにもなりました。そして、この土地にもっとなじんでいきたい、と思うようになったのです。
こうやって考えてみると、大阪に限らずどんな場所も、それぞれに良いところがあって、時間をかけさえすれば、その場所をいつの間にか好きなるものなんじゃないかなあ――なんて思ったりするんです。……ですけど、その時間をかけるにも、自発的にはなかなか難しいもので――。
――
昨年末。
【接待その1】
12月中旬。
取引先会長「ほう、マラソンか」
「は、はい」
課長「若いですよね。私なんてもう、何十年もまともに走ってませんよ」
「いや、マラソンに年齢は全然関係ないですよ?特にマラソンは!(本気)」
取引先会長「いやいや、私は走れないんだけど、うちの若いもんが結構走っていたりするんだよ。それで、焼き芋さんのタイムはどれくらいなの?」
「いや、ここで言えるほどのものでもなく……大体、4時間をギリギリ切るくらいでしょうか」
取引先会長「ほう、サブ4か!そりゃ速い」
課長「サブ4?なんですかそれ」
「フルマラソンを4時間以内で走り切ることで……ゴルフでも100を切るのが1つの分かれ目だったりするじゃないですか。フルマラソンも4時間がちょうどそこらへんのようだと思われます(多分)」
課長「へえ、それじゃ結構すごいんだ。でも会長、お詳しいですね」
取引先会長「まあね。しかしうちの会社でも、サブ4で走れる人間はいないんだよ。大したものだ」
「いや、私なんてまだまだで(ホマレホマレ)」
意外なところで話が盛り上がることになった。マラソンの神様からのご褒美だろうか。
【接待2】
12月下旬。
取引先次長「ほう、マラソンですか」
「ええ、そうなんです。まあ、独り者なんで、休日なんて走ることくらいしかなくて」
我が課長「でも、こいつ結構速いらしいんですよ。なんだっけ?サブ4?ってやつらしいです」
取引先部長「ほう、サブ4ですか」
取引先次長「あ、そういえば、部長もマラソンはかなり走ってましたよね」
取引先部長「うん、まあ、そうだね」
「あ、そうなんですか!」
取引先次長「部長は、実は有名なランナーの血筋の人なんですよ。ほら、苗字が〇〇でしょ?あの人の一族」
「え?〇〇部長?……あ、もしかして〇〇◎美?」
おそらく誰もが知っているプロランナー。ただし、たまたま同じで茶化されている可能性もあった。……しかしながら、いわれてみると、取引先部長からはレベルの高いランナーだけが放つといわれる特有のストイックオーラが感じられた(おまけに細マッチョであった)。
取引先次長「そうなんですよね、〇〇部長」
取引先部長「まあ、そうね(苦笑)まあ、直接俺には関係ないけどさ」
「へええええええ、すごいですね!それで、部長さんも走られるんですか?」
取引先部長「そうですね、まあ、昔は結構走ってましたけど、今はそれほどでも」
嘘をついているようには見えない。そこで、恐る恐る聞きたいことを尋ねる。
「聞いていいのかわかりませんが、差し支えなければ、自己ベストは――?」
取引先部長「まあ――2時間半弱ですね。もちろん、昔の話ですよ?今は全然です」
「ぶほ!どっしぇえ!!!早!」
我が課長「なんだよ。お前より1時間半以上早いってこと?っていうかサブ4って大したことないんじゃないの(笑)」
「いや、この方がすごすぎるだけですから!正規分布の端っこ!(※)いやしかし、そんな人の前で大変恥ずかしいかぎりです。本当に、すごい方だったんですね。お会いできて光栄です」
取引先部長「いえいえ。昔の話ですから」
神々しく光る取引先部長。ニワカモノとホンモノとの違いを見せつけられ、お世辞ゼロの心の底から尊敬のまなざし。会話もマラソン関係で続いた。接待としては、まあよかっただろう(と思う)。
これもある意味、マラソンの神様からのご褒美だったのか?
(※) どうでもいいが、フルマラソンのタイム統計を出してみた。想像していたのとは違い、あまり綺麗な正規分布ではなかった。いずれにしても、取引先部長はすごい人であることは間違いない。
資料:アールビーズ社アンケート資料を基に作成
――
先週。
会社にて。
ニンジンさん「お、あけましておめでとう」
「あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします」
ニンジン「うん、こちらこそ」
「あ、ニンジンさん、昨年末にお話しした件ですが」
ニンジン「おお、うん」
「2月末にちょうど大阪でハーフマラソンの大会ありそうでして。そちらでいかがかと」
ニンジン「いいねいいね。じゃあ、1月に一回20㎞くらい走る練習しようよ」
「そうですね。ぜひ」
ニンジンさんは、私とは違う営業部署の中間管理職の方である。同時に、わが社のトップ営業の方でもある。ニンジンさんが普段どのような営業をしているのかは知らないが、ニンジンさんの名前は、部署が違えど、知らない人はいない。
そんな人と私のようなイモ男が話す機会など、普段は皆無……なのだが、ニンジンさんと2018年の2月にハーフマラソンに一緒に参加することになったのであった。
きっかけは、昨年の10月ごろに催された部署を超えた飲み会の席。近くに座っていたニンジンさんとたまたま話す機会があった。その時にも――。
ニンジン「焼き芋君はまだ一人もんだろ?休日は遊び放題じゃん。どう過ごしてんの?」
「いや、つまらん人間ですので、遊び方を知らなくて――(苦笑)。まあ……時間があったらちょっと走るくらいですかね」
ニンジン「ランニング?どれくらい走るの?」
「まあ、日によって違いますが、数㎞~10㎞くらいですかね」
ニンジン「へえ。大会とかにも出てんの?」
「そうですね。2017年は4回くらいでましたね」
ニンジン「へえ、すごいじゃん。それってフルマラソン?」
「まあ、一応。でも、本当に大したもんじゃないので――」
ニンジン「いや、ここだけの話、実は俺も走りたいなあ、って思っていたんだよ。俺の中学生の頃の同級生で今も一緒に遊んでいる奴らも、走るのにハマりだしててさ。40代になると、体のことも気になってくるんだよね。俺もやりたいんだけど、ちょっと出遅れた感じがあってね」
ニンジンさんは確か40歳前後の方。ただ、見かけは30代前半と言われても驚かないような若々しい方である(ブログの中ではお世辞など言わん)。
「いや、ニンジンさん、別に普通にスラっとされているじゃないですか」
ニンジン「そんなことないよ。カミさんからももっと痩せろって言われてるし。なあ、今度一緒に走ろうよ」
「ああ、それはもちろん、ぜひお願いします(逆に私でいいんですか?)」
というわけで、1度大阪城周辺を走って以来、何度か一緒に走ったりしていた。私と走ってイッタイ何が良いのかわからないが、せっかくお声かけいただいているのだし、私自身も走ることに関しては楽しめているので、今後もできれば続けていきたい。
ともあれ、ずっと1人で走っていたけど、こんな形で一緒に走る人ができるとは思わなかったのであった。これもまあ、ランニングを通じた縁であろう。
大した目的意識もないまま始めたランニングだったが、いろんな人間関係構築に役立っている。これは素直に喜んでいいんだろう。マラソン人口が増えたおかげで「走る」という言葉に良い反応を示す人が増えているのだと思う。
でもまあ、こういう『仕事につながる走り』だけではなく、なんというか、もっと気楽というか――。
――
月曜日。成人の日で休日。
雨の中、いつものコメダ珈琲に行ってアイスコーヒーを飲みながら、まったりと過ごす。
ふとランニングサイトである「ランネット」をのぞく。ランネットは、大会エントリーの時しか使用していなかった。けど、よく見ると、いろいろなランニング関連情報が掲載されていることがわかる。その1つに以下があった。
マラソン コミュニティ。一緒に走る誘いやサークル紹介などがずらずらと載っている。
「……まあ、ねえ」
私はランネットを閉じ、トイレに向かう。
――
(……)
トイレから戻ってから、
ランニング 社会人 サークル
で調べる(ああ恥ずかしい)。
すると、マラソンサークルに関するサイトがずらずらと姿を見せる。どっやら、マラソンサークルは私が想像していたよりも遥かに多く、全国津々浦々に存在するようだった。暇つぶし、と自分に言い聞かせながら、そのサイトを見て回る。
(……ほう)
どれも楽しそう。走っている姿だけではなく、打ち上げの写真や、旅行の写真まで載っている。かなりストイックなサークルもあれば、緩やかにマラソンを楽しむことを主目的にしているものまで、実に多種多様。
しかし、こういうのを見ていると、高校や大学に入学した時の部活勧誘を思い出す。
あの雰囲気はとても高揚するのだが、どの部活においても、自分がそこでワイワイしている未来が想像できなかった(結局、今一つ盛り上がりに欠けているような部活に入部してきたのが私である)。
各サークル紹介に必ず記載している「応募資格」の欄が引っかかる。
楽しく一緒に走れる人
初心者、経験者、年齢、性別問わず、一緒に楽しくランニングできる方
老若男女問わず。初心者歓迎。ジョグや走りを楽しみたい方。
皆で一緒に練習したり大会に出たいという方、共に走る仲間と励まし合いながら続けられる方。初心者大歓迎!
「……まあ、ね(苦笑)」
コミュニケーション能力がカタツムリレベルの私にとっては、どれもハードルが高すぎる(よく営業を続けていられるよな)。 結局のところ、最低限の社交性を持ち合わせていないと……でも、いつかはこういう楽しみ方もできる大人になりたいな。まあそれは、三十路までの目標ってことにしようかな(もうちょい)
今は、遠くで走るつながりを楽しんでいる方々を遠目で眺めるくらいが限界ということで……(実際のマラソン大会もそんな感じだしね)。
以上、恥ずかしい胸のうち(*_*)