火曜日。夕刻。
私と課長と先輩で、取引先の倉庫で作業。ひたすら段ボールにラベルを貼っていく。
先輩「--よし、これで終わりです!」
課長「大丈夫か?漏れとかないか?」
先輩「はい、大丈夫です。いやあ、助かりました。本当に。すっかり日が暮れちゃったね」
私「本当に、無事終わって良かったですね」
先輩「独りだったら大変だったよ。課長、ありがとうございました。やきいも君もありがとう。じゃあ、部長に連絡だけしておきます」
先輩は安心した様子で部長に電話をかける。課長と私もほっと一息。
ーー
事の発端は朝10時のこと。先輩の携帯電話が鳴った。
製品ケースの印字にミスがある、どうなってるんだ
先輩の顧客から緊急の連絡があった。後に送られてきた問題画像を見てみると、確かに印字内容が完全におかしかった(段ボールに「肉まん」と印字されてあるべきところに「きん肉まん」って印字されている感じ)。どうやら、うちの工場の資材選定ミスであった。
顧客はお怒りで、今日中になんとかしろ、とのこと。先輩は慌てて「肉まん」のラベルを用意し、それを持って現場に行き、問題箇所の上から貼り付ける作業を行うことになった。独りで行うにはかなりの作業量になるので、この日出社していた課長と私と3人で現場に向かうことになったのであった。
日が暮れた17時頃、無事に作業が完了した。
先輩「ーーすみません、お待たせしました。今日は本当にありがとうございました。部長からは『ご苦労さんだったな。今日は経費で飲みに行っていいぞ』だそうです」
私「・・・え?(この流れは・・・)」
課長「さすが、部長。そりゃそうだよな。こんだけ肉体労働させられたんだもんな。それじゃ、お言葉にあまえて飲みに行くか」
先輩「営業車を会社に戻したらすぐに出発でいいですよね?焼き鳥とかにしましょうか」
課長「うん。いいね。密じゃないとこね」
先輩「やきいも君もいいよね?」
私「・・・いや、あの・・・すみません僕はちょっと厳しくて」
盛り上がっている空気の中、申し訳なさそうに伝える。
先輩「え?なんで?奥さん厳しいの?」
と、先輩が聞いてきたところで、課長が察する。
課長「・・・あ、そうか。わかった。やきいもはしょうが無いな」
私「すみません。行きたいんですが・・・」
課長「いやいいよ。じゃあ、1人分浮いたし、だれか会社にいる人に声かけてみるか」
先輩「え?え?なんで?」
課長「いいんだ。人生、いろいろあるんだ。察せ」
私「すみません」
というわけで、会社に戻った後、私は軽く残っていた業務を片付け、いそいそと会社を出る。
課長には、妊娠3ヶ月頃(10月上旬頃)に事情を伝えていた。本当は、安定期に入る5ヶ月頃に伝えるのがいいらしい・・・のだが、妻のつわりが思いのほかきついので、仕事に影響が発生するコトも考慮し、早めに伝えておいたのだ(実際、早めに伝えて良かったことも何度かあった。出張担当者を変えてもらったり、在宅勤務を優先的にさせてもらったりする等)。
飲み会だって、妻のコトを考えたら避けておきたい。理由を挙げたら切りが無い。
・妻が辛いのに夫がノンベンダラリで帰ってくるのは責任感がない
・妻に万が一のことがあったときに困る
・妻の晩ご飯の用意ができなくなる
・ 飲み会行ったことが原因で妊婦の妻にコロナを感染させるのが怖い(今風の理由だね)
などなど。
まあ、御託並べてみるが・・・本当は行きたかったんだけどね。飲み会なんてやる意味あるの?主義だった私が、まさかこんな気持ちになるなんてね。
電車に乗ったら、妻にLINEで
「さっき会社出た。何か食べたいものあったら買って帰るから連絡して。20時には帰れるかな」とメッセージを残す。その後、なんだか鈍い
疲労感に襲われた。きっと作業の疲れだろう。それに、今日は昼ご飯を食べられなかったので、完全にエネルギー切れだった。
(この状態で生ビール飲めたら・・・どれだけ旨いことだろう。先輩、焼き鳥って言ってたっけ・・・いいなあ。焼き鳥食いながら職場の人ともいろいろ話したいよなあ・・・)
電車中、ちょっとだけ寂しくなる。この状態で家に帰ると、妻にイライラをぶつけかねないと思った(小さい男なので)。
(・・・まずは、空腹感だけでも満たそう)
乗換駅を降りると、私は駅構内にある牛丼チェーンに飛び込んだ。
(牛丼並サラダセット。550円なり。)
一気にかっこみ、5分で食べ終える。なんてことのない、食べ慣れた牛丼。でも、この牛丼が、本当に旨すぎるくらい旨かった。
最後の1粒を食べ終え、温かいお茶を飲み干した頃には、空腹感はもちろん、さっきまでの
疲労感や寂しさはすっかり無くなっていた。本当に、これほど牛丼が美味しく感じたのは初めてだったかもしれない。陳腐な表現だけど、心も体も満たされた、って感じだった。
完食後、LINEをチェックすると、妻から「漬け物が食べたいな。あと、味噌ラーメンが食べたい。もやしは気持ち悪くなるからいらないからね」とのメッセージが来ていた。この時には、「了解。他に欲しいものがあったら連絡ちょうだい」と送る余裕ができていた。
グッジョブ、牛丼。ありがとう、
吉野家。また辛くなったら来ます。
・・・でも、飲み会も恋しいなああ~。