トツキトオカはまだまだ長い
お昼。この日も在宅勤務。
昼食中、妊娠中の妻がスマホを取り出し、私に見せる。
妻「あのさ、このアプリを入れてほしんだけど」
「ーーなにこれ」
妻「トツキトオカ。妊娠中の夫婦の強い味方らしいよ」
「なんなの?これ」
妻「出産まで残り何日!って、日めくりカレンダーみたいにわかるの。それに日数が近づくとともに赤ちゃんが成長していくの。どんな状態かが一目で分かるし、面白いでしょ」
面白くないよ。そんな訳の分からんアプリ入れたくない
と思わず言ってしまう前に一呼吸。
(・・・ここで「入れたくない」って言ったら、また『非協力的な夫』だの『赤ちゃんに興味の無い夫』だの思われる。アプリ入れるのは数分で済むのだから入れてしまった方がいいだろう。どうせ入れたって見ないだろうけど)
「ーーああ、そうなんだ。へええ。面白そうだしイレテミヨイレテミヨ!」
妻「・・・」
昼ご飯を食べる手を止めてアプリをダウンロード。そして、妻のデータと連携させる。
(画面はこんな感じ。)
「おお、赤ちゃんやないかい。こんな感じなんだ、今」
妻「どう、どう?いいでしょ、これ!」
「・・・ん?ああ。そうねえ」
画面をいじっていると、赤ちゃんのコメントが変わる。
「・・・なんだこれ。赤ちゃんがこんなこと思うわけないだろ」
妻「べびちゃんは優しい子だから思うんだよねえ~」
といってお腹をさする妻。すでに2対1である。
「ずいぶんと母親寄りに作られてるアプリだな。・・・しかし、コレ見てると、あと2人きりの夫婦生活も170日、ってことがわかるね」
妻「ああ、そうだね。寂しい?笑」
「いや、別に。でも、あっという間だったなあって思って。--いや、ごめん。そんなことは無いか」
結婚して1年たらずで妻が妊娠。スムーズなように思えるけど、妻は妊娠のことでよく悩んでいた。妊娠のために産婦人科に通っていたし、ネットや本で妊娠についていろいろ調べていた。私も(妻から言われたからでもあるが)、妊娠について本やネットで勉強し、妊娠がいかに奇跡的な出来事であるかを学んだ。それまで全く気にもとめなかった『不妊治療』という言葉がネットニュースや報道番組で取り扱われているのを見ると、どうしても確認せずにはいられなかった。男性にも原因があることが多いことを知り、恐る恐る検査キットで自分の精子も調べたりしたものである。
この1年で周りの人の見方も変わったような気がする。職場の方々が『妊娠・出産でとても苦労した』なんて話をしても、正直他人事であまり興味は無かった。でも、改めてそのときの話をちゃんと聞きたい思う。あとはーーもちろん、両親のいつも聞き流していた体験談も、改めてちゃんときいてみたい。
いずれにしても本当にラッキーなのである。私と妻は。
「これはいいアプリだ。毎日みよう」
妻「そりゃそうだ。見てください」
トツキトオカを意味も無くいじっていると 、また赤ちゃんのコメントが変わる。
パパにしかできないこと・・・ねえ。とりあえず明日からも妻をいたわろう。170日間、まだまだ先は長い。