つわりの救世主は 短命
夕食。
妻「ボリボリぼり」
「・・・」
妻「シャクシャクシャクシャク。ボリボリ--なに?」
「いや、本当に漬物好きだなあ、って思って」
妻「別に好きなわけじゃないよ。でもね、漬物食べてると落ち着くって言うか、口の中がさっぱりして楽なの」
「ふーん。漬物なんて、今まで全然食べてなかったのにね」
現在、妊娠15週目に入ったところで、妻はつわり真っ盛り。食欲がでないタイプのつわりである。妻は痩せ型なので、食欲が無いと、なんだか心配になるくらいげっそりして見える。妻自身も痩せすぎるのを気にしているのか、何も食べられ無いときは頑張ってゼリーなどで栄養補給を行っている。
そんな妻だが、ここ1週間、漬物にはまっている。特に気に入っているのが、近所の生協で売っているキュウリの漬物(2本入り)198円。買い物係の私がコイツを買ってきて、一口サイズに切って容器に入れておく。その日にパックに入れておいた分が、翌日か翌々日には無くなっている。そのため、ほぼ毎日キュウリを買いに行っては、切って冷蔵庫に補給しているのである。
このキュウリの漬物は消費期限が短く、2~3日くらいしかない。そのため、買いだめもできないのが少しめんどくさい。他の少し長い漬物を買ってても、妻の口に合わないらしく、あまり食べなかった。
(全く、もっと保存のきくものにハマっておくれよ・・・・・・)
とか思ってないよ?もちろん、愛する妻のためだもーん、なんでもするよ!いえーい!!
「そういえばさ、うちのお袋は、つわりの時よくハッサクを食べていたらしいのよ」
妻「うん。ボリボリ」
「ちなみに、俺もハッサク好きなのよ。お袋曰く、『妊娠中、ハッサクよく食べてたからお前もハッサク好きなんだ』って言う、謎の説を言うわけよ。この説で言うと、うちの子はキュウリ好きになるのかね」
妻「何それ(笑)まあでも、キュウリは確かにすごい食べてるね」
「20本くらい食べてんじゃないの。こりゃカッパみたいな子だなあ」
妻「いや、キュウリもブームみたいなものじゃない?。それで言ったら、梅干し菓子の方が沢山食べてるよ」
「梅干し菓子?ああ、あのすごい酸っぱいヤツか。前に大量に買ってきたな」
(これ。梅干しを固めたヤツ。調べたらつわりの妊婦に人気らしく、試しに買って妻に与えてみたら、気に入って食べていた。)
妻「つわりが始まったときに沢山買ってきてもらったじゃない。もう1か月くらい、毎日食べてるよ。もうすぐ無くなりそうだけど」
「そういや大量に買ったなあ。これ、あんまり売ってないのよね。探すの大変なんだよ。ネットだと10箱くらい買わなきゃいけないから食べきれないしね」
妻「そうだね。さすがにそんなにはいらないかな」
「うーん。まあ、また探してみるけど」
妻「さっきの説だと、梅干しばっかり食べてるから梅干し好きな子になるんじゃない?笑」
「キュウリに梅干し・・・梅きゅう好きか。こりゃ酒飲みが産まれてきそうだな」
妻「何それ。--あ、キュウリ無くなった。また明日買ってきてね」
「・・・もう無くなったの?もっと大事に味わって食べなさいよ。それか、買いだめしてもいいでしょ?」
妻「買いだめ--消費期限短いのに・・・?うん、別にいいけど・・・(チラ)」
「・・いいよ、また明日、1袋だけ買ってくるよ」
つわりで辛いはずなのに私の罪悪感を突いてくる妻は、実は元気なんかじゃないか?と思う時もあるが・・・そうじゃないんでしょうね。きっと。
何にしても、漬物に梅干し、伝統的な日本の食べ物に守られている我が家の食卓である。(つわりが過ぎたら・・・この救世主たちにはしばらく会わなくなるのかな?)
妻に感情的になってしまったときの対処法(万人向けかは知らん)
金曜日。
この日は在宅勤務だった。仕事終了後、パソコンを閉じて、いつものようにベッドで寝ている妻の元へ。
「調子はどう?」
妻「うん、あんまりよくない・・・」
「晩ご飯、食べられる物有る?」
妻「とろろごはん、かなあ。冷蔵庫に山芋あったけど、擦ってくれる?」
「うん、いいよ。それだけでいいの?」
妻「うん、ありがとう」
と、そこで終われば良かったのだが、次の妻の一言で一変。
妻「ちゃんと手を洗ってコロナを洗い流してから米をといでね。いつも手洗ってる?」
「は?」
その日、私は少しイライラしていたんだと思う。だから、妻の何気ない一言が特別に気になる。
「いや、いっつも洗ってるから。というか、それって失礼じゃ無いか?」
妻「え、何が?別に冗談だから(笑)」
「コロナコロナだから、そういうのが気になるのはわかるけどさ、そういう言い方って、まるで俺がいつも洗っていないみたいじゃん。そういうのが傷つくんだからな」
妻「え、ごめん・・・」
バタン
妻がそんなに深い意味を込めて言ったわけではないコトはわかっている。それでも、なんだろう・・・やっぱり少しイライラしていたんだと思う。
(毎日掃除もしてる、ゴミ捨てもしてる、食器も洗ってる、料理も作ってる、洗濯だって買い物だって--なのに、手がどうとか言うなよ。どの立場で言ってんだよ。じゃあ、お前がやれよってんだよ。やりもしないくせに)
沸騰した頭が不満で一杯になる。だが、少し遅れて理性が現れる。
(いや、やれないから妻も困ってんだろ。それに、さっきのは、いつものたわいもないコミュニケーションじゃん。冷静になろうよ。早く妻のところに戻って『怒ったふりだよ。なんちゃって~』ってフォローしようぜ)
(アホか。やってられっか。もう、全部めんどくさい。妻も一回困った方がいいんだよ。まじで。何でもかんでも、うんうん大人しく聞いたのが間違いだった。)
(つわりで辛い思いしてるのに『困った方がいい』、とか普通の神経じゃないって。DVかよ。ほんと、頭冷やせよ。というか、ここで妻を困らせてなんの得があるんだよ。妊娠は共同作業なんだから)
(そこらへんの夫よりよっぽど頑張ってんのに、なんで手を洗えとか言われなきゃならないんだ。そもそも、よその奥さんはつわりが辛くたって、もっと家事とかやってんだろ。うちの妻は楽をしすぎなんだよ)
(よその家と比べるのが一番ダメだって分かってるだろ?それに、お前が他の夫たちより頑張ってるって、なんでわかるんだよ。子供みたいに駄々こねるとか、ダサいって)
感情と理性で頭の中がぐちゃぐちゃになる。そして、悶え、しばらくソファーに横になる。
1時間ほどして、少し感情が落ち着く。ソファーからおきあがり、家事を行う。ついでに(一瞬迷ったが)妻がリクエストしたとろろ用意すべく、山芋を擦る。
1時間弱でご飯が炊き上がる。いつもならここで妻を呼びに行くのだが、妻と話したらまた負の感情が高まる気がしていけなかった。
(・・・ハラヘったら勝手に出てくるだろ)
と思い、自分のご飯を用意して食べる。
ーー
20時を過ぎてもまた妻は出てこない。仕方なく妻をよびに行く。
「・・・ご飯、できたから」
妻「ーーうん。ありがとう」
妻はすぐにやってきた。でも、会話をする気にならない。妻もそれを察しているのか、声をかけてこない。私は妻が来たのと入れ替えで風呂に入る。その後も妻とは会話せずに一日を終えた。
--
翌日。土曜日。
起きて部屋を掃除。妻も30分ほど後れて起きてくる。
妻「・・・おはよう」
「・・・ああ、おはよう」
自分の「おはよう」の言い方で、自分でもまだ負の感情が収まっていないことに気づく。
妻「もう、ご飯食べた?」
「いや」
妻「・・・」
妻はバナナとミカンを食べ終えるとすぐにベッドに戻ってしまう。
(・・・参ったなあ。モヤモヤが収まらない)
正直、もう昨日の沸騰した感情はない。だが、代わりにモヤモヤした気持ちがいつまでも残り、いつものように妻と会話できなくなってしまっている。
こんなの長引かせることじゃない
わかっているのに、自分でもどうしたらいいのかわからない。ソファーに寝そべりながら、行き場のない気持ちで反問。
(俺は一体何をしているんだろう。身重の妻にストレス与えるようなことしてアホなのか?・・・わかってるんだけどなあ・・・)
1時間ほどソファーで寝ているうち、ふと、思い立つ。
(何かを捨てよう。このモヤモヤも一緒に捨てられるかもしれん)
よくわからない理屈だが、今の自分にはコレが一番有効な手段に思えた。そして、しばらく整理していなかった冷蔵庫を開ける。
もう残り少ない調味料、賞味期限が切れた食べ物、しわしわの野菜、買ったけどおそらく妻が食べられない食べ物--などを一気にゴミ箱に捨てる。
(コイツもコイツも!コレはもったいないけど・・・ええい、捨ててしまえ!)
捨てているうち、だんだん気持ちが晴れていくのを感じる。
--そして、ゴミ袋がパンパンになったところで、
(・・・謝るか。)
と、ようやく素直に思えるようになった。寝室に行く。
「起きてる?」
妻「・・・」
「・・・昨日は悪かった。急に変な感じになって。俺もいろいろたまっていたらしい。ごめんなさい」
妻は一度怒った表情を浮かべた。そして、すぐに涙を流しはじめていることに気づく。その様子を見て、再度
「ごめんなさい。許しておくれ」
妻「・・・うん」
あらためて反省。
それ以降は、いつもの2人の雰囲気に戻ることができた。ともあれ、長引かせずに謝ることができたので良かった。でも、こういうのはできる限り繰り返さないようにしよう。改めて、あらためて反省である。
最後に、
イライラとかモヤモヤとかしたら、何かを思いっきり捨ててみる。
私の家庭円満秘訣ノートにしっかり残しておこう。
「つわり」に対する 適切ではないたとえ
木曜日。今日も妻はつわりで寝込んでいる。
ベッドで横になる妻を励ます。
「調子どう?なんだか、きつそうね」
妻「つわり辛い・・・。もう耐えられない・・・」
「大丈夫かあ。・・・大丈夫じゃないよなあ」
妻「ネットで妊婦のブログとか見ると、『私は会社のトイレで毎日吐いてました!』とか『子供と夫の面倒見ながらつわりと戦いました!!』とか 言っている人いるけど、私は本当無理だと思う・・・我慢が足りないのかな・・・」
涙を浮かべる妻。その姿が実にいじらしく感じる。
「・・・いや、そんなことないよ。そんなこと言うなよ。十分頑張ってるって。ブログなんて、ある程度自己顕示もあるもんだよ。『私はこんなに頑張ってます!』とか『皆さんとは違う特別な人生を生きてます!』って思われたいだけだよ。だから、話半分で読むくらいでいいんだよ。それに本当のこと書いてるかどうかもわからないし(すみません、妻を励ますために言っただけです。皆さんのことではありません)」
妻「そうなのかな・・・。でも、私はもう、つわりは二度と味わいたくないなあ・・・二人目は無理かも・・・」
「わかるわかる。よくわかるよ」
妻「・・・わかるの?」
「うん。おれもフルマラソンに出る度に、35kmのあたりで『もうしばらくマラソンはいいや』って思うもん。ほら、いま14週目でしょ?つわりは16週目くらいまでって言うし。なんとなく、フルマラソンのポイントと同じじゃん」
妻「うん。・・・うん?」
「辛いのはよくわかる。でも、完走した後には、『さて、次はいつ走ろう』って思うのよね。多分、妊娠も同じようなもんなんじゃないかな。出産したら、つわりの辛さなんて忘れちゃうんじゃない?マラソンと一緒で」
妻「・・・それ、一緒なの?」
「え?」
妻「一緒なの?それと?」
妻の問いかけと腑に落ちない表情から、妻が言いたいことを感じる。
「・・・あ、ゴメン、違うかもね。適切なたとえじゃ無かったね」
妻「うん、そうだね」
「『趣味で走っているマラソン』と『つわり』を一緒にしちゃだめね」
妻「うん、そうだね」
「・・・さて、飯の用意するか。なんか食べられるものある?」
妻「・・・ごめん、何もいらない」
「そうか・・・(俺も35km地点では何も食べたくなくなるよ)」
・・・いや、俺のマラソンだって辛いんだよ?・・・でもまあ、趣味の苦しみと、会社を1ヶ月近く休む苦しみ・・・一緒にされたらそりゃ違うわなあ。
つわりの場合、男は下手に共感しようとしなくていいのかもしれない
後輩ができたら教えてやろう。
疲れた後の一杯(牛丼)は最高だね。
火曜日。夕刻。
私と課長と先輩で、取引先の倉庫で作業。ひたすら段ボールにラベルを貼っていく。
先輩「--よし、これで終わりです!」
課長「大丈夫か?漏れとかないか?」
先輩「はい、大丈夫です。いやあ、助かりました。本当に。すっかり日が暮れちゃったね」
私「本当に、無事終わって良かったですね」
先輩「独りだったら大変だったよ。課長、ありがとうございました。やきいも君もありがとう。じゃあ、部長に連絡だけしておきます」
先輩は安心した様子で部長に電話をかける。課長と私もほっと一息。
ーー
事の発端は朝10時のこと。先輩の携帯電話が鳴った。
製品ケースの印字にミスがある、どうなってるんだ
先輩の顧客から緊急の連絡があった。後に送られてきた問題画像を見てみると、確かに印字内容が完全におかしかった(段ボールに「肉まん」と印字されてあるべきところに「きん肉まん」って印字されている感じ)。どうやら、うちの工場の資材選定ミスであった。
顧客はお怒りで、今日中になんとかしろ、とのこと。先輩は慌てて「肉まん」のラベルを用意し、それを持って現場に行き、問題箇所の上から貼り付ける作業を行うことになった。独りで行うにはかなりの作業量になるので、この日出社していた課長と私と3人で現場に向かうことになったのであった。
日が暮れた17時頃、無事に作業が完了した。
先輩「ーーすみません、お待たせしました。今日は本当にありがとうございました。部長からは『ご苦労さんだったな。今日は経費で飲みに行っていいぞ』だそうです」
私「・・・え?(この流れは・・・)」
課長「さすが、部長。そりゃそうだよな。こんだけ肉体労働させられたんだもんな。それじゃ、お言葉にあまえて飲みに行くか」
愛する妻とお腹の子のために、インフルエンザ予防接種に行ってきた
月曜日。
今日は会社の有給を取得。午後からインフルエンザワクチン予防接種を受けに行った。
妻が妊娠し、はや14週目。妊婦として自身の体調管理には余念が無い。無論、夫だって妻のために体調管理に努める必要がある。夫自身も体調管理に気を遣う、これもまた妊婦妻のためにできることの1つだろう。愛する妻と未来の子供のためだったら、有給だって堂々と取ってやる。(なんて偉そうなことを言っているが、実際は妻から「受けてこい」、と言われたからであるが)。
ーー
午後3時から受付開始。医院にはすでに行列ができており、外にはみ出る人もいらっしゃる。列を作るのは母親と子供の親子連れが多い。私もその列に並んで順番を待つ。
三十分ほどして、私の順番が来る。
「ヤキイモさん、どうぞー。診察室の前でお待ちください」
「はい」
診察室前に行くと
「いやだいやだいやだいや!!いーやだ!いーやだ、いーーやーーーーだ!!」
と、おんなのコの絶望の声。大いに泣きじゃくる。必死に子供をなだめる母親と笑いながらあやす看護師。そのやりとりを見て、私も笑っていたが、だんだん恐怖が湧いてくる。
「お待たせしました。ヤキイモさん、どうぞお入りください」
「はい、お願いします」
「さっきは大騒動でしたが、心配なさらないでくださいね笑」
「ええ(笑)そうですね・・・こちらも少し怖くなってきたところです」
「大丈夫です。一瞬で終わりますから。では、二の腕を出して、腕を固定するために腰に手を当ててください」
「こ、こうですか?」
「そうです、そうやっている間に・・・はい、終わりです」
拍子抜け。一瞬チクッとしたが、それでおしまい。
「え、もう終わりですか?本当に打ちました?」
「はい、おしまいです。足りないですか?ナンならもう一本くらい打ちましょうか?」
「いや、もう大丈夫です。恐れ入ります」
本当に打ったのか疑いたくなるほどであった。
(これで外していたら怒りたいところだが、確認することもできないしな・・・とりあえず看護師さんを信じて「職人技」だった、ということにしておこう)
・・・素直に信じられない感じ、なんとも人間不信な大人になったものである。
会計を待つ間も、院内の電話ではインフルエンザワクチンの確認電話が度々鳴っていた。この時期はやはり大忙しなんだろう。コロナの影響で受ける人も増えそうだしね(知らんけど)。
会計を済ませ、自宅に戻る。なんだか一仕事終えた気持ちであった。
(インフルエンザワクチンって10割負担なのね。知らんかった。)
正直私もそこまでワクチンに効果を期待しているわけでもない。インフルエンザワクチンは、今回を除くと人生で1回しか受けたことがない。そのときだって、今の会社に入社する前の学生の時に、会社側から強制的に受けるように指示されたためだ。自分で受けようと思ったのは本当に今回が初めてである(ん?そういや今回も奥さんから指示されただけか)。
私自身、幸いにもこれまでインフルエンザにかかったこともない。そのため、俺はインフルにはかからない、という気持ちがないわけではない。私独りで有れば間違いなく予防接種など無視していたと思う。
ただ、今回は妻を安心させるのが目的だ。これで少しでも妻の不安が減るならば、それだけでも価値があると言えるだろう。もちろん、お前のために受けてきたぞ!なんて、恩着せがましいコトは妻には言わないけどね。ああ、いい旦那(自己満)。
・・・あれ?でも、コレを理由にしたら、これから毎年受けなきゃならなくね?子供ができたらなおのことじゃね?
・・・そういうもんなのかねえ。どうなのかねえ。
おしまい。
あ、最後に、ブログ名、変えました。もともとが「『まくら』営業、はじめました」
だったけど、あらためて
妻と「妊娠」はじめました
となりました。
元々のブログ名が意味不明だったので、ある意味分かりやすいブログ名になったといえるだろう。
余談だが、最初は「妻が『妊娠』はじめました」にしようかと思ったけど、「お前自体は妊娠に関係ないってコトか!?」って感じがしたので、「妻と『妊娠』はじめました」ということにしました。まあ、どうでもいいですが。
今後ともどうぞご愛好の程、よろしくお願いいたす。
すごい人って、意外と身近にいたのかな?・・・お前は?
土曜日の昼。
晩ご飯を食べ終え、ぼんやりとテレビのクイズ番組を観る。番組では、今もっとも乗りに乗っている外食産業の某企業が特集されており、「業界第一位の最大の理由は?」とか「会社名の由来は?」とか「売上トップスリーはどれ?」などがクイズとなっていた。
最近この手のクイズが多いよなあ~、と思いながら観ていると、
「あれ・・・?・・・あれ!?」
妻「ちょっと、何よ、急に大きい声出さないでよ」
「ああごめん、でも・・・あれ、この人って・・・」
つわりで気持ち悪そうにしている妻に詫びつつも、再度テレビに映っている男性を凝視。見覚えがあったのだ。ただ、思い出せない。
その男性は、特集されている企業の開発部長として、クイズ番組の出題者になっていた。芸人にいじられながらも、企業の魅力を照れくさそうに、そして力強く説明している。
「--ああ、思い出した。あのときの人だ」
と、ようやく、この人とつながりがあった時のことを思い出す。正直、「つながり」と呼べるほどのレベルとは言いづらいが・・・。
ーー
2年前、会社からの命令で社外研修へ参加することになった。研修は主にディベート形式で、20~40代くらいの様々な分野の会社の人が参加していた。人数は30人くらい。合計6回の研修であった。この研修中に、上記の開発部長と出会ったのである。
・・・まあ、出会ったと言っても、研修を通して一言二言会話しただけだし、特段仲良くなったわけでもない。相手もひとまわり以上年齢が上だったので、そんな軽々しく話せなかった。無論、連絡先の交換もしなかった。その場の空気で名刺交換はしたけど、なんというか、「人脈作り」はしんどかったので、研修が終わったら名刺も捨ててしまった(出世しないタイプ)。
正直、そんなに印象に残っている人ではなかったので、すぐには思い出せなかった。上述の通りディベート形式の研修なので、よくしゃべる人はかなり目立つのだが、その開発部長はほとんど記憶に残っていない。あんまり発言の多いタイプの人ではなかったのである。
しかし、あのときの開発部長さんが、今こうしてテレビの世界で一線で輝く芸能人たちを相手に「会社の顔」として自社の魅力について語っているのを観ると、なんとも不思議な心地である。そして、なんだかとてもかっこよく見える。
(あの時の名刺、捨てておかなきゃ良かったなあ・・・でもまあ、仮に名刺持っていたからナンだ、って話だけどね。)
--
翌日。土曜日の朝。
朝食を食べ終え、ぼんやりと朝の情報番組を観る。番組では、「今最も乗りに乗っている通販企業」の特集が行われていた。番組では、コロナの影響で多くの企業が厳しい状況にある中、逆に大きく成長している企業としてその会社を取り上げていた。
まあ、通販系は伸びているよな~と思いながら観ていると・・・
「あれ・・・?・・・あれ!?」
妻「ちょっと、何よ、急に大きい声出さないでよ。・・・つわりで辛いんだから・・・」
「ほら、このコ、このコ!」
妻「何?誰?知り合い?」
「知り合いだよ!ほら従姉妹のマルコ(仮名)じゃん」
テレビには、通販事業の新製品のマーケティング業務の紹介を行う女性の姿が映し出されている。その女性こそ、従姉妹のマルコであった。妻は映像を見てもあまりピンときていない様子。映像は10秒ほどで切り替わってしまった。
「ああ、いなくなった。マルコだって。間違いないって!そういえば、この会社に就職したって、大分前に親父に聞いたような気がするよ。忘れたの?」
妻「忘れたも何も、私、1回も会ったことないもん。私たちの結婚式も人数の都合で呼べなかったじゃない」
「あれ、そうだっけ?」
妻「ていうか、本当にあってんの?名前も出てないし、それにマスクしてたけど」
「間違いないよ。ちっちゃい頃から何回も顔合わせているんだから、忘れるわけないだろ。・・・いやあ、すごいなあ。あのマルコがあの成長企業の顔になっているなんてなあ」
妻「テレビ観たよって、言ってあげたら?」
妻にそう言われ、急にトーンダウンする私。
「・・・いや、いいよ。もう連絡先知らないし、別に、今更ねえ」
と、興味のないふりをしたが、後で父親に電話し、「マルコがテレビに出ていたと思うんだけど、勤めている会社って通販関係で有名な○○だっけ?さっき、なんかマルコっぽい娘がでてたけど、なんか聞いてる?」なんて聞いてみたりした。(やっぱりマルコだったようである)
それにしても、二日連続でこれまで関わった人たちがテレビに出ているのを本当に偶然!目撃するとは・・・なんとも不思議な気分であった。身近なところで、私たちはいろんな世界で活躍する人たちと出会っているんだなあ。
・・・じゃあお前は?
自分に問いかける。会社の顔とは全く言えない一兵卒。・・・これから、なのかな?・・・あれ、なんか無性に『プロフェッショナル仕事の流儀』の主題歌聴きたくなってきた。
おしまい。
夫もほんのちょっとだけ、つわりはご苦労なのよ
金曜日のこと。
18時にPCを閉じ、在宅勤務終了。ビールをプシュッとしたい花金欲求を抑え、ベッドで寝ている妻の元へ行く。今宵の食事のリクエストを聞くためだ。妻が妊娠してからは、私がご飯支度をすることになっている。
「つわりの調子はどう?なんか食べられそう?」
妻「・・・あんまりよくない。・・・でも、シチューが食べたい」
「シチュー?・・・シチューねえ」
(正直、シチューってあんまり好きじゃないのよね。ご飯のおかずにもならないし・・・晩ご飯にパンを食べるのもあんまり気分がねえ・・・。)
「--レトルトとかでいいの?食品メーカーの努力で、今はレトルトでもいろいろ美味しいのが出てるよ」
「レトルト?・・・レトルトかあ」
「・・・わかったよ、作るよ。作らせていただきますよ」
「コーンも入れてね」
「ブロッコリーもニンジンもジャガイモも入れるよ!」
いつものように、モヤモヤが心の中にわいてくる。
(ねえ、世の中の妊婦ってこんなに我が儘なのか?というか嫁よ、お前、元気じゃん。俺優しくしすぎ?俺だって仕事で疲れてんだかんな?在宅勤務だからってサボってるわけじゃねーんだからな?おい。・・・・・・まあ、こんな時代だし、そんなこと思ったらダメだよな。それに、いつ、つわりがひどくなってしまうかもわからんしなあ。むしろ、食べたいものをリクエストしてくれたことに喜ぶべきだよな。それに、一日中ベッドの上にいたんだもの、晩ご飯くらい我が儘言いたくもなるよなあ。そりゃそうだよね。俺も子供の頃、風邪引いたらそんな風に我が儘言っていたと思うよ。うん、多分・・・そうだきっとそうだったよね。そうそうそう・・・)
「どうしたの?あ、肉は鶏肉ね。胸肉はカタイからもも肉にしてね」
「うん(レバーでも入れたろか)」
材料なんにもないから、とりあえず近所の生協に買い物に行く。
たまたまセールになっていた固形シチューを購入。鶏肉は胸肉の方が58円/kg、もも肉は128円/kg。胸肉ならば半分以下の値段で買えるので大変悩む。
(独り用ならば間違いなく胸肉だが・・・)
妻のリクエストなので、仕方なくもも肉を購入。これで妻がタンパク質を取ってくれるならば安いものだ。ああ、なんていい旦那なんでしょうね!、っと、自分で自分に言い聞かす(わかってますよ、小物なんです)。
--
帰宅し、シチューをセカセカと作る。予定通り20時頃に完成し、妻を呼ぶ。
「できたよー」
「うわー、ありがとう!」
「シチューなんてひさしぶりに作ったよ。まあ、無理せず食べられる分だけ食べてくれ。あ、これ、付け合わせのナンね」
「シチューにナン?初めて聞いた」
「知らん。でも、パンだと晩ご飯って感じがしないからさあ。パンの代わりになりそうもの探していたら、ナンが売っていたのよ」
説明している間に、妻はシチューを一口。しかし、無表情。
(む、この表情は・・・)
いやな予感。 そして案の定、的中。
「・・・なんか、味、しなくない?」
「そう?ちょっと薄いかな?明日になれば野菜の甘みとかもっと出るんかね。知らんけど・・・コンソメとか加える?」
「いや、いいよ、このままで。あと、なんか緩くない?シチューってもっとぼてっとしてる気がするけど」
「そ、そう?作り方通りに作ったんだけど・・・。こういうもんなんじゃない?」
「いや、いいよ。美味しい美味しい--あ、ナン美味しいね。ナンってこんなに美味しかったんだ!」
「うん、市販品だからね(ナンの方がリアクションでかい、っていうね)」
「・・・ごちそうさま。ごめん、今日はもういいや・・・。明日また食べるね」
妻はシチューを小盛り一杯を食べ終え、そのまま再びベッドに戻った。残された私はなんとも言えぬ心地で、「ただでさえ大して好きでもない味が薄くてゆるいシチュー(自虐)」を3杯食べる。しかし、まだまだ鍋一杯にシチューが残っている。残りは冷蔵庫に入れて、明日に回す。
(一箱使ったから、5~6人前くらい有るじゃねーの・・・。というか、なんで1箱分も作ったのかねえ・・・)
なんとも浮かぬ金曜日であった。
--
土曜日。
朝起きてシチューを温める。正直、食べたくはなかったが、在庫消化しなければしょうがない。
(「作れって言ったんだから責任もって食え!」と言って、妻の口に流しこんでやろうか)
と思った。だが、とうの妻は1日中体調が悪そうだったので、そんなことはおくびにも出さない(出せない)。
「おはよう、大丈夫?体調は」
「気持ち悪い・・・」
「なんか食べられるもの有る?」
「ゼリーお願い。あと、経口補水液?あとリンゴとバナナ」
「はいはい(シチューって言わねーのね)」
結局、妻のリクエストで作ったシチューは、ほぼすべて私が食べたのであった。もう、シチューはあと10年は食べなくていい。
早くつわりが治まって欲しいと切に願う日々である。
あと最後に1つ!妻よ、愛してるよ。(とりあえずこれだけは忘れずに)
いつか、「父さんは母さんがつわりで苦しいときも、ご飯作りを一生懸命頑張ったんだぞ」と言える日を夢見て頑張ろう。