夫もほんのちょっとだけ、つわりはご苦労なのよ
金曜日のこと。
18時にPCを閉じ、在宅勤務終了。ビールをプシュッとしたい花金欲求を抑え、ベッドで寝ている妻の元へ行く。今宵の食事のリクエストを聞くためだ。妻が妊娠してからは、私がご飯支度をすることになっている。
「つわりの調子はどう?なんか食べられそう?」
妻「・・・あんまりよくない。・・・でも、シチューが食べたい」
「シチュー?・・・シチューねえ」
(正直、シチューってあんまり好きじゃないのよね。ご飯のおかずにもならないし・・・晩ご飯にパンを食べるのもあんまり気分がねえ・・・。)
「--レトルトとかでいいの?食品メーカーの努力で、今はレトルトでもいろいろ美味しいのが出てるよ」
「レトルト?・・・レトルトかあ」
「・・・わかったよ、作るよ。作らせていただきますよ」
「コーンも入れてね」
「ブロッコリーもニンジンもジャガイモも入れるよ!」
いつものように、モヤモヤが心の中にわいてくる。
(ねえ、世の中の妊婦ってこんなに我が儘なのか?というか嫁よ、お前、元気じゃん。俺優しくしすぎ?俺だって仕事で疲れてんだかんな?在宅勤務だからってサボってるわけじゃねーんだからな?おい。・・・・・・まあ、こんな時代だし、そんなこと思ったらダメだよな。それに、いつ、つわりがひどくなってしまうかもわからんしなあ。むしろ、食べたいものをリクエストしてくれたことに喜ぶべきだよな。それに、一日中ベッドの上にいたんだもの、晩ご飯くらい我が儘言いたくもなるよなあ。そりゃそうだよね。俺も子供の頃、風邪引いたらそんな風に我が儘言っていたと思うよ。うん、多分・・・そうだきっとそうだったよね。そうそうそう・・・)
「どうしたの?あ、肉は鶏肉ね。胸肉はカタイからもも肉にしてね」
「うん(レバーでも入れたろか)」
材料なんにもないから、とりあえず近所の生協に買い物に行く。
たまたまセールになっていた固形シチューを購入。鶏肉は胸肉の方が58円/kg、もも肉は128円/kg。胸肉ならば半分以下の値段で買えるので大変悩む。
(独り用ならば間違いなく胸肉だが・・・)
妻のリクエストなので、仕方なくもも肉を購入。これで妻がタンパク質を取ってくれるならば安いものだ。ああ、なんていい旦那なんでしょうね!、っと、自分で自分に言い聞かす(わかってますよ、小物なんです)。
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帰宅し、シチューをセカセカと作る。予定通り20時頃に完成し、妻を呼ぶ。
「できたよー」
「うわー、ありがとう!」
「シチューなんてひさしぶりに作ったよ。まあ、無理せず食べられる分だけ食べてくれ。あ、これ、付け合わせのナンね」
「シチューにナン?初めて聞いた」
「知らん。でも、パンだと晩ご飯って感じがしないからさあ。パンの代わりになりそうもの探していたら、ナンが売っていたのよ」
説明している間に、妻はシチューを一口。しかし、無表情。
(む、この表情は・・・)
いやな予感。 そして案の定、的中。
「・・・なんか、味、しなくない?」
「そう?ちょっと薄いかな?明日になれば野菜の甘みとかもっと出るんかね。知らんけど・・・コンソメとか加える?」
「いや、いいよ、このままで。あと、なんか緩くない?シチューってもっとぼてっとしてる気がするけど」
「そ、そう?作り方通りに作ったんだけど・・・。こういうもんなんじゃない?」
「いや、いいよ。美味しい美味しい--あ、ナン美味しいね。ナンってこんなに美味しかったんだ!」
「うん、市販品だからね(ナンの方がリアクションでかい、っていうね)」
「・・・ごちそうさま。ごめん、今日はもういいや・・・。明日また食べるね」
妻はシチューを小盛り一杯を食べ終え、そのまま再びベッドに戻った。残された私はなんとも言えぬ心地で、「ただでさえ大して好きでもない味が薄くてゆるいシチュー(自虐)」を3杯食べる。しかし、まだまだ鍋一杯にシチューが残っている。残りは冷蔵庫に入れて、明日に回す。
(一箱使ったから、5~6人前くらい有るじゃねーの・・・。というか、なんで1箱分も作ったのかねえ・・・)
なんとも浮かぬ金曜日であった。
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土曜日。
朝起きてシチューを温める。正直、食べたくはなかったが、在庫消化しなければしょうがない。
(「作れって言ったんだから責任もって食え!」と言って、妻の口に流しこんでやろうか)
と思った。だが、とうの妻は1日中体調が悪そうだったので、そんなことはおくびにも出さない(出せない)。
「おはよう、大丈夫?体調は」
「気持ち悪い・・・」
「なんか食べられるもの有る?」
「ゼリーお願い。あと、経口補水液?あとリンゴとバナナ」
「はいはい(シチューって言わねーのね)」
結局、妻のリクエストで作ったシチューは、ほぼすべて私が食べたのであった。もう、シチューはあと10年は食べなくていい。
早くつわりが治まって欲しいと切に願う日々である。
あと最後に1つ!妻よ、愛してるよ。(とりあえずこれだけは忘れずに)
いつか、「父さんは母さんがつわりで苦しいときも、ご飯作りを一生懸命頑張ったんだぞ」と言える日を夢見て頑張ろう。